第3跳 紙飛行機と初フライト

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 大会後は恒例らしい青葉東中オンリーBBQ大会だ。  1年生歓迎会を兼ねている。小学校の宿泊体験以来になる野外での料理だ。  こういう時に、ヒトとしての本性が出るものだ。ナツミはすごく器用で、屋根の着いた台所で、華麗な包丁さばきを見せている。  私はそこそこしか包丁を使えないので、他の先輩たちや同級生たちと、調理や配膳に回った。 天才ナツミは補佐いらないとのことだ。頼もしいんだか、羨ましいんだか。  向こうの調理場では火起こしをしている。そこでミクラ先輩が、ホンマ先輩を怒っていた。  ムッとした釣り目で、ニヤニヤ笑う変態王子を女性陣の代表として睨む。 「ホンマさん、エッチな本を燃やしていませんよね?」 「去年の話じゃん。今年はちゃんと改心したぜ」 「本当ですか? フジサキ先輩はさっきからどこに行っているんですかね?」 「トイレで……摘んでいるね」 「……そういう下品なところです」  盛りのついた小学9年生は、中学2年生のミクラ先輩の冷ややかな視線にも動じない。  知りたくなかったけど、王子様のメンタルが強いことが分かった。  みんな席について、おしゃべりをしながら、それぞれにご飯を食べる。  男性陣の紅茶ベースの炭酸飲料を混ぜて、ゲーム感覚で飲むのは止めた方がいいと思った。ナツミは飄々と飲んでいたけど、食事の後半でトイレに長い時間かかっていた。  悪ノリの中。何だかカレーライスが少し食べにくい気もする。  女性陣でも話し続ける面々がいる一方で、ハセナナ先輩のように黙って食べている人もいる。  一口食べると、すごく美味しい。外で作ったからだろうか。それとも、王子様がかかわった料理だからだろうか。 「アヤカちゃん、ホンマさんに熱い視線ですねぇ」 「うわ、ナツミ!」  やつれた顔で現れたナツミの不意打ちを食らう。  私がホンマさんを意識するのに、その一言だけで十分だった。この友人は私の性質をよく知っている。  恒例のBBQも片づけが終わり、最後になった。  対面した先輩たちへ新入生の自己紹介が始まる。もう私の番だ。 「ササノアヤカです。将来はホンマケンタさんみたいな、すごいロングジャンパーになります!」 「うぇーい。ケンタ、やったじゃねーか! 恋愛禁止だぞ! まぁ、いっか!」  フジサキ先輩の雑な煽りだ。部員たちは爆笑した。  照れて顔を隠すホンマさんを、先輩たちは次々に小突いた。熱いラブコールが尾を引いた。  私は隠し事が出来ない自分に苦笑いした。やってしまった感。自分で何を言ったか、  ようやく気付いたのだ。真っ赤な顔を下にして、身体を震わせた。  隣りに立つナツミが、私のお尻を指でつねった。痛っ。すぐさま、彼女は小声でささやく。  彼女の発言は、小さい復讐だった。当然、私は涙目になった。 「笑いなさいよ。ユーキャンフライ、ネクストゲーム」 「そういう意味で言ったんじゃないよ……もう」  ただナツミは、いつも大真面目だ。  100Mで全国優勝します、隣に立つナツミの強心臓には敵わない。平然と大言を口にするあたり、ナツミにはブレがない。  私はどうなんだろうか。笑うことに、もう一度チャレンジした。 あぁ、今度も涙目の笑みだ。  強い言葉に、まだ自信が持てないんだ。自分の弱さを自覚した。
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