10人が本棚に入れています
本棚に追加
第4跳 紙飛行機と勝負の初夏
「おーい、アヤカ戻ってこい」
「まだスタンドに学校の昇り旗つけてないよ。ナツミも手伝って!」
大会初日、1年生は朝から忙しい。学校のテントを立てたり、スタンドに父兄応援の目印になる学校名が入った昇り旗を立てたり、と色々な仕事があった。
あ、今日は6月下旬第4日曜日だ。
青葉市西東京郡中学陸上競技大会の初日、地区予選会が始まった。ロフトで放心していた私が、ナツミから頬ビンタを食らってから、すでに何日か経っている。
天候は雨雲り、湿度高め、無風だ。
流石に梅雨なので、競技場フィールドのコンディションは良くない。
ナツミは女子1年100M走、私は女子共通走り幅跳びにエントリーになった。
全ての昇り旗を設置し、私たちは学校のテントへ戻る。
まだ始まったばかり。プレッシャーのないナツミは、表情が明るい。
「地区予選開始! 私はそろそろ1次アップを先輩たちとするわ。アヤカはいつするの?」
「あ、えーと、女子リレーと走り幅跳びの予選は同じ時間だから……」
「……一緒にウォーミングアップ出来るね」
ナツミがニコっと笑う。
初めての参加競技がある大会で、私は動揺していた。友人が優しくしてくれて、この上なく助かる。私にも少し、気持ちの余裕が出来た。
スプリンターは自己中心的なナルシストと思っていた。
違う。
精神的な余裕と、瞬時の競技に対する集中力なんだ。
陸上競技は個人種目なのに、青葉東中のチームで戦っている気がする。新しい発見だ。
私たちは率先して、先輩たちの荷物を持ち、ウォーミングアップ用の土グランウンドへ来た。
他校のジャージの色に圧倒される。何となくだけど、みんな速そうで強そうだ。
私の荷物をもつ手が震えている。ここから戦いなのか。
突然、三倉愛莉先輩がバッサリ切った。気の強さはうちの中学一だと思う。
「見なさいよ、ヒトがゴミのようだわ! 素晴らしいショーだと思わない?」
某映画のキャラクターだ。
自尊心が強い。そう一瞬思った。どうやら、急にモノを言わなくなったのは、ナツミもだった。
集中する中学生の選手たちが出す空気、異様な空気に飲まれかけていた。
先輩のおかげで、スッと肩の力が抜けた。なるほど、1年生の気持ちを楽にしてくれたんだ。
「あはは、アイリの言う通りだよ。バルスってるね」
「何それ。私たちの足下が崩壊しないように、さっさとアップに入るぞ」
笑うタケウチ先輩が追加して話す。
ツッコミのハセナナ先輩はバトンを手に呆れ顔だ。ふとナツミと視線が合う、クスッと笑ってきたのでニッと笑い返した。
最初のコメントを投稿しよう!