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4月某日、春光眩しい。
青葉東中学の校舎4階廊下、袖丈が合ってない真新しい黒の詰襟制服、それを着たモラトリアムな小学7年生たちで溢れている。
休み時間は休まないのか。
文字通り笑い転げていたり、廊下を逆立ち走行で競争していたり、この意味不明な光景は理解に苦しむ。中学生になったのだから、生活規範を学んでほしい。
すっかりお堅い人のイメージが定着した私は、何処のグループにも所属してない。女子力を発揮してグループ交流なんて面倒くさい。この時季の話題は、「放課後、何部の見学に行く?」なんてありきたりの話だ。
私は少し大きくなった机に両腕を投げ出して顎を付ける。だれる。こうしないと、肩だけでなく全身凝ってしまう。
この中学には、女子の野球部がない。他の女生徒に話すと、野球女子というだけでドン引きされた。こんな反応はもうたくさんだ。
「へぇ、体育会系なんだ。武道やっている娘だと思った、あはは」
それに私のような西部の山奥の小学校出身者はただでさえ異端の目を向けられる。
グループ交際のハードルが高すぎるではないか。ただでさえ長い休み時間が余計に億劫に感じた。
何処かの地区シニアリーグの野球部に入ろうかな。
ボーと、そんなことを考えていると、突然前の机を叩かれた。
バン。白く透き通った両手。
ようやく私は顔を少し上げた。半開きの目で相手を確認だ。
例の灰瞳、オレンジ髪で泣き虫な走り屋だ。私はやる気のない低い声で尋ねた。帰れの意味を込めて。
「何か用か?」
我ながらドスの効いた声だ。大人過ぎる顔と低い声はいつも劣等感だが、こんな厄介払いには役立つ。
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