第1跳 紙飛行機と出会いの春

4/4
前へ
/23ページ
次へ
 1週間もすると、名乗ってない私を綾香(アヤカ)呼びしてきた。はて、誰から聞いたのか。でも、ポニーテールさんと髪型で呼ばれるよりは親しみある。  ナツミは他人と壁を作らない良い娘なのかもしれない。どうやらアメリカ帰りの帰国子女で日米ハーフの娘らしい。  いずれ無二の親友になる娘の情報は、その時はこれだけだった。 「あー、アヤカ逃げるなぁ!」 「陸上部は遠慮する、ごめんなさい!」  青春マンガのような定型文を口にして、廊下を疾走している。あぁこれじゃあ、私も小学7年生だ。  何とか空き教室に逃げ込み、向こうに走り去るナツミを見送った。ドア越しに安堵の息を漏らした。ふう。  暑い。  制服が肌に引っ付く。4月だか、珍しく陽光がキツい。汗ばむくらいだ。この教室も窓が全開だった。侵入してきたのは、白い紙飛行機だった ea29668c-9a6e-404f-a52f-f967b349c0d8  乙女みたいな発想だが、体育の時から、2度目の紙飛行機に運命を感じた。何気なく私は摘み上げる。大分、几帳面な職人が器用に折った感じだ。  町工場で小さい部品を作る父の手を思い出した。野球の監督でもあったので、厳格な性格で私でさえ恐怖することもある。  ただし、商品の形はしっかりであり、仕事はとても丁寧だった。  さて、この子。左右対称だろうか、とおもむろに紙飛行機を広げた。 『新入部員募集中~青葉東中 陸上部~』  可愛らしいウサギとカメの競争するイラスト入りだ。  ははぁん、天から降ってきた紙飛行機まで私を陸上部へ勧誘するのか。これは出来過ぎたストーリーだ。  思わずクスっと笑った。久しぶり過ぎて、頬が痛い。  紙飛行機は折り直し再現できなかったので、残念ながらゴミ箱へ投下だ。  ご縁あって来たのに。ごめんね。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加