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1週間もすると、名乗ってない私を綾香呼びしてきた。はて、誰から聞いたのか。でも、ポニーテールさんと髪型で呼ばれるよりは親しみある。
ナツミは他人と壁を作らない良い娘なのかもしれない。どうやらアメリカ帰りの帰国子女で日米ハーフの娘らしい。
いずれ無二の親友になる娘の情報は、その時はこれだけだった。
「あー、アヤカ逃げるなぁ!」
「陸上部は遠慮する、ごめんなさい!」
青春マンガのような定型文を口にして、廊下を疾走している。あぁこれじゃあ、私も小学7年生だ。
何とか空き教室に逃げ込み、向こうに走り去るナツミを見送った。ドア越しに安堵の息を漏らした。ふう。
暑い。
制服が肌に引っ付く。4月だか、珍しく陽光がキツい。汗ばむくらいだ。この教室も窓が全開だった。侵入してきたのは、白い紙飛行機だった
乙女みたいな発想だが、体育の時から、2度目の紙飛行機に運命を感じた。何気なく私は摘み上げる。大分、几帳面な職人が器用に折った感じだ。
町工場で小さい部品を作る父の手を思い出した。野球の監督でもあったので、厳格な性格で私でさえ恐怖することもある。
ただし、商品の形はしっかりであり、仕事はとても丁寧だった。
さて、この子。左右対称だろうか、とおもむろに紙飛行機を広げた。
『新入部員募集中~青葉東中 陸上部~』
可愛らしいウサギとカメの競争するイラスト入りだ。
ははぁん、天から降ってきた紙飛行機まで私を陸上部へ勧誘するのか。これは出来過ぎたストーリーだ。
思わずクスっと笑った。久しぶり過ぎて、頬が痛い。
紙飛行機は折り直し再現できなかったので、残念ながらゴミ箱へ投下だ。
ご縁あって来たのに。ごめんね。
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