いいわけの魔女

3/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
     入ってみると、以前の本屋と比べて、店内の構造はかなり変わっていた。  まずフロア面積が二倍も三倍もある。どう考えても建物に収まる広さではなく、なるほど「魔法の本屋」だと感心してしまう。  かつては店の奥にあったレジの場所も異なり、今度は入り口に設置されていた。ちょうど銭湯の番台みたいに、少し高いところに店の者が座っているのだが……。 「いらっしゃい」  と挨拶してきたその店員は、全身がピンク色。等身大のクマのぬいぐるみだった。  店の広さという時点で既に「魔法」という非日常を実感させられており、ぬいぐるみ店員にも驚くべきではないのだが……。  思わず俺は、ぬいぐるみ店員に尋ねてしまう。 「それって、着ぐるみじゃないんですよね?」 「おや? あなたは……」  店員はこちらの質問に答える前に、ぬいぐるみ特有のつぶらな瞳をいっそう丸くして、俺の顔を覗き込んできた。 「……なるほど。このお店が初めてどころか、一般人なのですね!」  面白いものを見つけた、と言わんばかりの口調に変わる。  続いてクルリと背中を向けて、そこにあるファスナーを見せつけてきた。  ファスナーがあるならば、ぬいぐるみではなく着ぐるみだったのか。俺は納得すると同時に「ごくごく常識的な存在だったのか」という失望も感じたが……。 「どうぞ、そこから手を突っ込んで確認してください。中の人なんていませんから」  言われた通り試してみると、確かに中には誰も入っていなかった。子供の頃に遊んで壊したぬいぐるみ同様、白い綿みたいな化学繊維が、ぐちゃぐちゃと詰まっているだけ。 「納得できましたか?」  ぬいぐるみの言葉に無言で頷きながら、俺は店内を見回していた。自覚はないものの、おそらく不思議そうな表情をしていたのだろう。 「なるほど。次はこの店について教えてもらいたい、という顔をしていますね。ならば教えてあげましょう!」  どうやら話し好きなぬいぐるみらしく、店員は説明を始める。  それによると……。  ここは真夜中だけ営業している本屋であり、ごくまれに俺のような一般人が紛れ込むこともあるが、基本的な利用客は魔法使いや人外の生き物たちばかり。  俺が知らなかっただけで、魔法が使える人間は世の中に結構いるらしく、そうした魔法使いにしか見えない「人外の生き物」もたくさん存在しているそうだ。 「協会が把握している統計によれば、人類の約三パーセントが魔法使いだそうですよ」  という話だから驚きだ。  確か、俺が通う大学には数千人の学生がいるはず。そこに「約三パーセント」を当てはめるならば、百人以上は魔法使いが在籍していることになるではないか! 「こちら側の世界へようこそ。こうしてうちの店を訪れたのも何かの縁です。あなたも今後は、こちら側の世界と関わるようになるでしょうね」  店員はそう言いながら、もふもふしたぬいぐるみの顔にニヤリと笑みを浮かべた。    
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!