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入ってみると、以前の本屋と比べて、店内の構造はかなり変わっていた。
まずフロア面積が二倍も三倍もある。どう考えても建物に収まる広さではなく、なるほど「魔法の本屋」だと感心してしまう。
かつては店の奥にあったレジの場所も異なり、今度は入り口に設置されていた。ちょうど銭湯の番台みたいに、少し高いところに店の者が座っているのだが……。
「いらっしゃい」
と挨拶してきたその店員は、全身がピンク色。等身大のクマのぬいぐるみだった。
店の広さという時点で既に「魔法」という非日常を実感させられており、ぬいぐるみ店員にも驚くべきではないのだが……。
思わず俺は、ぬいぐるみ店員に尋ねてしまう。
「それって、着ぐるみじゃないんですよね?」
「おや? あなたは……」
店員はこちらの質問に答える前に、ぬいぐるみ特有のつぶらな瞳をいっそう丸くして、俺の顔を覗き込んできた。
「……なるほど。このお店が初めてどころか、一般人なのですね!」
面白いものを見つけた、と言わんばかりの口調に変わる。
続いてクルリと背中を向けて、そこにあるファスナーを見せつけてきた。
ファスナーがあるならば、ぬいぐるみではなく着ぐるみだったのか。俺は納得すると同時に「ごくごく常識的な存在だったのか」という失望も感じたが……。
「どうぞ、そこから手を突っ込んで確認してください。中の人なんていませんから」
言われた通り試してみると、確かに中には誰も入っていなかった。子供の頃に遊んで壊したぬいぐるみ同様、白い綿みたいな化学繊維が、ぐちゃぐちゃと詰まっているだけ。
「納得できましたか?」
ぬいぐるみの言葉に無言で頷きながら、俺は店内を見回していた。自覚はないものの、おそらく不思議そうな表情をしていたのだろう。
「なるほど。次はこの店について教えてもらいたい、という顔をしていますね。ならば教えてあげましょう!」
どうやら話し好きなぬいぐるみらしく、店員は説明を始める。
それによると……。
ここは真夜中だけ営業している本屋であり、ごくまれに俺のような一般人が紛れ込むこともあるが、基本的な利用客は魔法使いや人外の生き物たちばかり。
俺が知らなかっただけで、魔法が使える人間は世の中に結構いるらしく、そうした魔法使いにしか見えない「人外の生き物」もたくさん存在しているそうだ。
「協会が把握している統計によれば、人類の約三パーセントが魔法使いだそうですよ」
という話だから驚きだ。
確か、俺が通う大学には数千人の学生がいるはず。そこに「約三パーセント」を当てはめるならば、百人以上は魔法使いが在籍していることになるではないか!
「こちら側の世界へようこそ。こうしてうちの店を訪れたのも何かの縁です。あなたも今後は、こちら側の世界と関わるようになるでしょうね」
店員はそう言いながら、もふもふしたぬいぐるみの顔にニヤリと笑みを浮かべた。
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