いいわけの魔女

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     それから少しの間、店内を見て回ったけれど、残念ながら俺には読めない本ばかりだった。魔法使いには魔法使い向けの、人外たちには人外たち向けの、それぞれ専用言語が用意されているらしい。  翻訳のための文法書や辞書も置いてあったが、わざわざ購入するほどの興味もなく……。  適当に挿絵や写真の多い書物をパラパラとめくっただけで、魔法の本屋を後にした。  ぬいぐるみ店員の「また来てくださいね」という挨拶を背に受けながら。  店を出た俺は、振り返りもせず、すぐにスタスタと歩き出す。  店内では非日常感の雰囲気に飲まれてしまい、普通に過ごしてしまったけれど、いざ外に出た途端、意識が日常に戻ってきたのだ。  そうなると「あれは俺が足を踏み入れるべき世界ではない」という危機感を覚えて、あの場所から早く離れたくなったのだが……。  そんな俺に対して、後ろから声をかけてくる者がいた。 「見つけたわよ、タカヒロ!」  若い女性の声だった。  周りに誰もいない以上、俺に対する呼びかけなのだろう。しかし俺のフルネームは剛田(ごうだ)健介(けんすけ)であり、名字も下の名前もタカヒロではない。  人違いだと告げるために俺が振り向こうとしたのと、女性が叫んだのは同時だった。 「我が恨みを思い知りなさい! これぞ秘術『アンラッキー7の呪い』よ!」  振り返った俺が目にしたのは、こちらに右手の人差し指を向けている女性。 「えっ、別人……!?」  彼女が驚いているのも聞こえたが、俺が知覚できたのはそこまで。  フッと意識が遠くなり、俺はその場に倒れ込むのだった。    
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