10.思い出は気絶と共に

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10.思い出は気絶と共に

 掌の上で画面上のアイコンをタップするとタイトルが立ち上がりテーマ曲が厳かにスタートし、次に繊細なイラストが現れオープニングムービーが流れ始める。  キラキラとした光と飛び散る薔薇の花びら。  アップライトされる白亜の城。  ゴージャスなシャンデリアの上に広がる天使のフレスコ画から徐々に視点が下がっていき、緩やかな曲線を描く白い階段に攻略対象者達が立ってこちらを向いているのが見える。  二人の王子を含む7人のセレブリティな男性達だ――  ある者は妖艶な微笑みを湛え、ある者はニヒルな表情で横顔を見せるが視線だけはこちらに向ける。  甘い微笑みを浮かべる者や無表情に手を差し出すだけの彼等のうちの一人だけを選び指先で画面をタップすると、そのイケメンと自分の甘い恋愛ストーリーが展開するのだ。  ×××  自分の役柄は典型的なシンデレラ系ヒロインという設定で下位貴族の庶子として産まれ母と共に市井で暮らしていたのだが、ある日突然貴族の父親に引き取られ、何故か王宮で開かれたパーティーに参加する事になる。  そして現れた7人の攻略対象者達の一人と恋に堕ちるのだ。  絵本のように現れる静止画とアニメーションのイケメンがうっとりするような素敵ボイスで、自分に向かって選択肢を与えて来るがそれを選び取る(ごと)にストーリーは様々な場面を迎える。  勿論ライバルの令嬢も恋の障害として立ちはだかるし、魔法の使える自分は魔獣との戦闘も選択肢次第で発生する。  それを乗り越えた先に訪れる幸せも各ヒーローのルート次第で違うものになるのだ。  彼女の推しは王太子であるウィリアム。  他の攻略対象者よりも頭一つ分背が高い彼は甘いマスクというよりワイルド系のイケメンで、身体つきも細マッチョ。  勿論腹筋はシックスパック常備である。  魔法こそ第2王子のアダムには叶わないが、剣技が特に優れていて馬術の名手でもある。  彼は騎士団の遠征には必ず参加して国の安寧を保つ役目を担う騎士のような高潔な王太子だ。  魔獣の討伐に度々参加するので他の攻略対象より怪我も多く、クライマックスで瀕死の重傷を負うがヒロインの献身的な看護で持ち直し愛を育む。  そして愛し合う二人の前に当て馬として立ちはだかるのが、彼の婚約者である公爵令嬢シルフィーヌ・アーバスノット。  ヒロインである自分の看護の事実は無かったものとされ、意識のない彼の眠る病室から公爵家の私兵の手によって無理矢理連れ出された挙げ句、公爵家の地下にある牢屋に入れられてしまう。
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