1.『尼寺へ行け!』と申し渡す王子様

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1.『尼寺へ行け!』と申し渡す王子様

 その日は王立学園の卒業式当日であった――  カートレット王国の第1王子、ウィリアムは王立学園の卒業謝恩パーティーの会場に設置された壇上から、己の婚約者であるシルフィーヌ・アーバスノット公爵令嬢に向かい、 「分かった。シルフィーヌ・アーバスノットよ。この場から去り修道院へ赴き自らと向き合いその罪を償え」  よく通る声で、そう言い放った。  それに対し名指しをされた令嬢シルフィーヌは深々とした極上の敬意を表するお辞儀(カーテシー)を返しながら 「承知いたしました」  と。  彼の意を汲む返事を返したのである。  パーティー会場にいた着飾った卒業生そして居並ぶ保護者達はまるで魔法に掛かったように、異を唱えることもなく誰もがその場を動こうとはしなかったという――  ×××  頭脳明晰、文武両道、そして偉丈夫――  カートレット王国の第1王子ウィリアム・カートレットは、国内だけにとどまらず諸外国にまでその優秀さを知られる青年だ。  今年の秋、王立学園の卒業式の翌月には18歳となり彼が立太子するであろうと王国の誰もが信じて疑わない傑物――  赤銅色に近い赤毛と意志の強そうな青い瞳。  スッと通った高い鼻筋に形の良い鼻梁の下に続く引き締まった唇と男らしい顎のライン。  若い頃の国王陛下を彷彿とさせる容貌とスラリとした姿は御伽の国の王子様と云うよりは騎士のような清々しさと凛々しさを備えている――  彼は幼い頃から学問に、武に、芸術にと才能を発揮し当時から担当していた教師陣を唸らせる程であり、魔法に関しては王族の誰もが叶わぬほどの異才を発揮した。  次々に目新しい着眼点で新しい魔法を構築する彼は魔法の寵児と魔塔の(あるじ)達から絶賛されるに至った。 「そりゃそうだよ。それってフィーの言ってた転生者特典ってヤツなんだろ? 大体さあ生まれた時から転生前の大人並みの理解力が脳みそに詰まってるチビっ子だぞ? 周りが唸るに決まってる」  黒い駿馬に跨り、田舎道をポクポクと進む旅人姿の男が自分の前に座った小柄な少女に向かって呆れた声を出す。 「ズルいわ。ウィルは最初(ハナ)っから前世の知識を駆使してて、神童とか天才とか言われちゃって。私なんか『王子のオマケ』とか、『地味令嬢』とか言われちゃって『分不相応』って貴族達に陰口たたかれちゃってさぁ」 「オマエのどの辺りが『地味』なのか俺は是非教えて貰いたいがね。どう贔屓目に見たってフィーは華やかな美人だぞ?」  腕の中にスッポリと収まる少女の顔を前かがみになってウィリアムは覗き込んだ。 ▲▲▲  Subtitle『尼寺へ行け』     有名なシェイクスピアの歌劇ハムレット内のセリフですが、本文での王子のセリフは『修道院』に変更してます。  間違いではありません。  タイトルの方が単なる作者の趣味で御座います(_ _)
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