17.男爵令嬢が現れた!

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17.男爵令嬢が現れた!

 ウィリアム王子の『修道院へ赴け』発言の日から1年程前のことだ。  その頃になると逞しく成長したウィリアムの姿は誰が見ても立派な世継ぎの王子であり、誰も彼もがウィリアムの剣技の模擬試合や馬術競技に熱狂した。  王侯貴族の責務として騎士団と共に遠征をする際の魔獣退治の魔法の技術の高さの素晴らしさに周りの人間ほぼ全員が感嘆の溜息を付くようになっていた。  平民にとっての彼の人気は自分達を守ってくれる事に対する尊敬そのものだったが、それに加えて市井の若い娘達は遠征から帰って来る時に見られる凛々しい馬上の姿に黄色い悲鳴を上げた。  貴族の子息達にとっては羨望の的であり、貴族子女達にとっては密かな恋心を抱かずにいられない相手ではあったが、彼の周りには幼い頃からの幼馴染みの高位貴族の子息達が側近として控えていたし、2歳の頃からシルフィーヌが婚約者だったのは周知の事実だった為、側に侍ることは至難の業だった。  ×××  そんな中、王立学園に途中編入という形で入学したオリヴィエ・アボットという名の男爵家の娘が、学園に訪れていたウィリアム王子に突然近付き始めたのである。  男爵家の後継の嫡女が急死したため正式に養子縁組をした美しい少女で元々男爵の庶子として届けられていた為にすんなりと後継として国に認められたのである。  貴族家の後継になるには専門的な教育は必須。  その為の特別入学である。  但し裕福な商家の娘である母親から生まれた彼女は勉強は兎も角、貴族としての教育はほどんどされていなかった為にマナーは最低限で学園では浮いた存在だったのだが、高位の貴族にはない天真爛漫さ、言い換えれば平民の図々しさを大いに発揮して王子や彼の側近達に近付いていくが、彼女は学園の生徒達から何故か支持される様になる。  まるで狙ったかのように市井で流行り始めた低位の貴族の令嬢が王太子と恋に落ち、高位貴族出身の悪役令嬢を断罪して王太子妃におさまり幸せになるという恋愛歌劇のようだと何故か皆が信じたせいである――  赤信号、皆で渡れば怖くない! 的な集団心理というやつかも知れない。  いや、赤信号は必ず止まれなのだが・・・
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