26.ハイ、壁際に立って待つ!

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26.ハイ、壁際に立って待つ!

 カートレット王国の王子は二人いて、第1王子のウィリアムは17歳、第2王子のアダムは15歳だ。  王家の子供は7歳の茶会に出席した後は社交が始まると共に王族としての執務や、魔獣討伐等――こちらは12歳過ぎてからだが――王家の一員としての責務が始まる。  その為彼らは7歳を過ぎれば王子の執務室や寝室が構えられた『王子宮』と呼ばれる離宮に居を移し、そこで暮らすことになる。  それまで本宮と呼ばれる場所で両親や兄弟姉妹と共に暮らしていた場所には部屋は無くなるのが普通だが、何故かこの二人に限っては本宮にある王妃の執務室のすぐ横に二人一緒に使う彼ら専用の執務室が構えられている。  毎朝王子宮で騎士団の訓練に参加し、朝食後に王子としての執務を片付けた後、昼食を挟み本宮の執務室に移動して国王の執務補佐を熟すのである。  魔獣討伐に出征する場合は片方が残り、いつものルーティーンを熟すのが通常だが残される方が出征する王子を見送る際に 『じゃ、陛下の書類添削しとくから』 『頼んだ』 『頼まれた』  という、お決まりの挨拶を交わすのである・・・  そう、本宮にある執務室で王子達(王妃も時に混ざるが)がやっているのは、何故か国王陛下の執務室から見直しをする為に回ってくる書類の添削であって、決して彼等の執務では無いのだ。  以前は王妃だけがやっていたらしいが、見かねたウィリアムが手伝い始めソレを見て育ったアダムも自ずと始めたのである。  前国王夫妻も一人息子だった現国王(当時は王太子)では『足りない』部分を補ってくれる者が居ないと国政が流石にヤバいと思ったらしく、才女と言われた現王妃に頭を下げて嫁いでもらい一安心したのだが、そのうちしっかりするだろうと高を括っていたのが悪かったのかそれとも王妃がしっかり者過ぎたせいなのか、王太子が国王に即位した後も抜けっぱなしでここまで来てしまったのである。  現国王陛下は腕っぷしはあるので、魔獣討伐は非常に得意。  しかも男前で人誑しなので国民には非常に人気が高く、お飾りの王としては申し分ないのだが家族としては国政、特に書類仕事に弱いという欠点がというのが本音である。  ×××  「陛下抜けてるからねえ~・・・私がしっかりし過ぎてたのが裏目に出ちゃったわねえ」  妻になり、抜けてる陛下をサポートする生活を始めて幾歳月・・・  今では陛下の書類に向かい添削作業をせっせとやるのが当たり前になってしまった息子二人に目を向けて、溜息を吐く王妃殿下。 「陛下をしつけ直すより息子を育てるほうが早かったから・・・」 「「でしょうね」」  王子達二人が手元の書類を見ながら羽根ペンを走らせる。 「父上は僕にとっては反面教師という名の有り難い存在ですからね」  第2王子アダムが辛辣である。 「いつかいつかって、何時迄も待ってらんねえからな。国政は生きてるんだから、やらない奴が置いてきぼりになるのは仕方がない」  第1王子ウィリアムはもう匙を投げている。  壁際に立ち並ぶ文官達も顔には出さないが王子達の言葉に内心苦笑いである。 『もう陛下経由ナシでそのままココに持ってくりゃ良いんじゃね?』  言うに言えないまま、壁際で書類の完成を待つ彼らである。
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