27.謎の作家と8冊の本

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27.謎の作家と8冊の本

 「よし、今日の分は終わりだな」 「コッチも終ったよ」  二人の王子がやっと書類から顔を上げて、最後に残されていた文官達がソレを待ってました! と言わんばかりにそそくさと捧げ持つと丁寧にお辞儀をして部屋を退室していく。 「まあ、陛下がヌケてるお陰で息子達どっちもが優秀になったから、良いんだけどねぇ・・・陛下は指摘すると直ぐに拗ねるし。どっちが立太子しても良いくらい二人共が優秀に育って良かったと言うべきかしらねえ」  執務室にある応接用のソファーに座り呆れ顔になる王妃。 「産まれ順からいうと兄上が次期国王ですけどね」  シレッとアダムがそう言いながら、片手でティーカップを口に運んだ。 「ま~そうだけどな。5歳から似たような生活してると飽きてくるぞ?」 「・・・ウィリアムはそうだったわね。確か4歳過ぎで私の足元で計算の間違いを指摘してたわねぇ~。アダムに手が掛かった頃だからあの頃は助かったわぁ」  遠い目で昔を思い出す母。 「考えてみればとんでも無いですね。間違いを指摘する4歳児って・・・」  母の言葉で絶句する第2王子。 「俺はどの書類のことだかは全く覚えてないがなぁ・・・」  勿論嘘だ。  実はちゃんと記憶してるウィリアムである・・・・  ×××  「ウィリアムが言ってた話題のあの舞台の事を間諜に調べさせてみたわよ。学生達の間では原作の物語も流行ってるみたいね」 「原作があったんですね」 「初耳だ」  王妃が差し出した書類の束を兄弟二人が覗き込む。 「出版社は王都の割と小さな所だけど、それを大手の書店が大量に仕入れて販売してじわじわと平民に浸透したものが劇作家に飛び火したらしいわね」 「全部で8冊もある?」 「全て同じヒロインでシリーズ化されてて、恋愛対象が全部違うパターンみたいよ」 「1人の女性が8人の男性達と恋愛するんですか?!」  アダムが驚いて紅茶を吹き出す。 「ウ~ン、違うなコレ対象は7人で最後の1冊だけ、纏めて全員と恋愛してる感じだなこりゃ・・・」  ペラリと書類をめくって、顎に手を当てて首を傾げるウィリアム。 「えぇ~・・・」  あり得ないといった感じで首を振るアダム王子。 「1冊目が王太子、2冊目が第2王子、3冊目が公爵家の嫡男、4冊目が侯爵家の次男・・・」 「ちょっとちょっと、おかしいでしょそれ?! なんなのソレ!」  カップを乱雑にテーブルに置くと慌てて書類を兄からひったくるようにして、手にするアダムと、両手を上げて溜息を吐くウィリアム王子。 「下手すりゃ名誉毀損とか、不敬モンで騎士団に作者がしょっ引かれても文句を言えんような内容だな」 「フィクションの娯楽作品だから、そこまで規制出来ないわ。でもね~、作者の正体が不明なのよねこの本」 「「え?」」 「匿名で出版社に直接投函されてたのが約5年くらい前らしいのよ。で、出版社がゲラ刷りしたものの、作者不明のままお蔵入りしてたのを大手の書店の社長が発掘したらしくてね。試しに刷らせてみたらヒットしたらしいわ」  ――内容がほぼノートと一緒か・・・フィーと摺り合わせが必要かな?  書類を手に持ったまま、首を傾げるウィリアムだった。  
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