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31.公爵令嬢の災難
シルフィーヌが地味な装いをし始めたのはウィリアムとの婚約披露パーティーが終ってからすぐの事。
その時丁度14歳だった彼女はパーティーの間、花の女神のように美しく装っていたし、隣に立つウィリアムは凛々しく彼女をエスコートしていた。
周りはそれを微笑ましく受け入れ、パーティー自体は無事終了した。
しかしながら、そのパーティー直後から何故か彼女を付け回すストーカーが湧いて出始めたのである。
ストーカーの1人や2人公爵家の騎士達が捕まえてしまえば問題はないのだが、困ったことに何故か数が把握できないくらい多かったのだ――
これには流石の公爵家も困ってしまった。
護衛を増やしても屋敷の周りにまるで誘蛾灯に集る羽虫のように現れる自称、『シルフィーヌの運命の恋人』達は平民どころかこの国の貴族子息や他国の身分ある者や豪商など、とんでも無い連中が混ざっていたのである。
彼女自身この国の第1王子の婚約者で王族に将来は名を連ねる予定の高貴な身分でもあり、横恋慕などもっての外なのだが恋とは人をおかしくさせるのか・・・
彼らは捕まえて一晩すると正気に戻るのだが、何故か全員がストーカー行為をしていた間の事を全く覚えていないのだ。
まるで全員が催眠術か呪いにでも掛かっていたのかと感じる位おかしな状態が何ヶ月も続いたのである。
このままでは気味が悪いだけでなく何処にも出掛けることすら出来ないので貴族としての生活すらもままならないと感じたシルフィーヌはいっそ自分の姿を変えてみては? と提案してみた。
家族は皆が渋い顔をしたがこのままでは茶会に出席できなくなるどころか、王城に呼ばれても出掛けることすら出来なくなると考えた公爵夫妻は娘の提案を受け入れた。
出かける時はまるで侍女かカヴァネスのような地味な格好で馬車に乗り込み行った先が王宮なら与えられた部屋で着替える。
呼ばれた貴族家の茶会や夜会の場合は諦めて目立たない格好で出席する。
エスコート役のウィリアム王子には申し訳ないが、婚姻式までの辛抱だと皆が諦めた。
王子と婚姻して王族になってしまえば手出しはされないだろうと周りも本人も考えた結果である。
但しそのせいで最初の姿は何故か忘れ去られ、1年もしないうちにシルフィーヌは『地味令嬢』として認知されてしまい公爵家夫妻は臍を噛む想いだった。
もっともウィリアム王子をはじめ王妃や、第2王子達は王宮内で元々の姿に戻った上に美しく着飾った彼女と度々共にお茶をしているし、ウィリアムに至っては夜中に公爵家の彼女の私室に内緒で出入りしていたのであまり気にはしておらず、ただ美しい彼女の姿を隠してしまうのは勿体無いな、と思うだけに過ぎなかった。
×××
乙女ゲームの当て馬である公爵令嬢シルフィーヌは、上品で卒なく何でもこなせる令嬢だったが見た目に派手さがなく清楚で慎み深く見えてもプライドは高いため、卑屈で僻みっぽくヒロインの天真爛漫さとは真反対として描かれていた。
無口で意思表示をあまリしないため、行動力のある王太子とはコミュニケーションが取れておらずその性格の違いからも上手く行っていないという設定だったのだが、本来の美しさを隠さなければいけなくなった経緯がまさかの横恋慕・・・
コレが強制力の力技なのかもしれない・・・
但し、ゲーム内ではカヴァネスやメイドに見間違えられる程地味ではなかった筈だったのだが、若干前世の記憶持ちのシルフィーヌ嬢がやりすぎた感が否めない案件である・・・
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