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38.港町
海風が頬をスルリと撫でるのが気持ち良く感じられる港街の馬車溜まりに到着した3人は馬車を降りると、石畳の続く歩道を進んだ。
護衛達は王家からの者と伯爵家の私兵の混合編成で総勢20人程が目立たない距離感でついてくるが、行く先々の道や壁が真っ白くて日差し受けて反射するためなのか、とにかく明るいので隠れる場所もなく目立ってしまいどう見てもやんごとなき身分の人物を警護をしているのがバレてしまう。
通行人がウィリアム達3人をチラチラ見ながらすれ違う為、ソレがよく分かる・・・
「お忍びの視察って言ってますけど、御二人にとっては要するに普段の街の様子を確認するっていう体のデートでしょう?」
「うん。まぁ・・・そう言われるとそうだな」
ウィリアムの肘に手を置いて、エスコートされながら、エリーゼ嬢とウィリアム殿下の言葉でつい顔が赤くなるシルフィーヌ嬢。
「ここ数年でコリンズ領は観光地として人気が上がったんですよ。デートスポットとしても有名になりつつありますので今回の視察が殿下とシルフィーヌ様だったのは、コリンズ家としては有り難いですね~」
「? どういう事だ?」
「宣伝効果ですよ。『どうやらお忍びで高貴な身分の方々が訪れたくなる位コリンズ領は魅力的らしい』ってね!」
フッフッフッと怪しく笑うエリーゼ。
「お忍びだから身分は明かせないんだぞ?」
「だーかーら! ソレが却って興味を引いていいんですよ~わかんないかなあ~高位貴族っぽい方々が好んでやって来るらしいっていう想像で、こう特別感が出るじゃないですか! ついでに2人が仲睦まじく過ごしてるとますます『ロマンチックな観光地らしい』っていう噂が伝わるでしょ!」
「・・・商魂逞しいな」
呆れ顔のウィリアムに
「ありがとうございますっ!」
満面の笑顔で答えるエリーゼである。
「お昼はこの辺りで採れる海産物を扱うお料理が堪能できる店に案内します。御二人は海鮮料理は大丈夫ですか?」
「おぉ、海鮮は嬉しいな」
「私も好きです」
ニカっと笑いながら
「じゃあ、楽しみにしてて下さいね。取り敢えず中央市場から説明しますね」
エリーゼは歩いていく先に見えてきた大きな倉庫のような建物を指さした。
「アレが、我が領に他領や外国から商人達の足を運ばせるきっかけになった場所でして、コリンズ家が近年になって王家に財政難の援助を嘆願しなくても大丈夫になった理由です」
「成る程」
「アレと、街の活性化で我が領地は税収も上がったんですよ。それを調べに来たんですよね?」
ふふふと意味ありげに笑うエリーゼ。
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