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41.『あ~ん』はお約束ですよ?
「さあさあ。ここで私が監修させて貰いますから、心置きなくイチャラブをお願いします」
昼食の為に入った食堂の窓際の席でにこやかな笑顔で2人に目を向けるエリーゼ嬢。
白く塗られた木枠の窓の向こうには青く美しい海が広がり、日光を反射して煌めいているのが見える――
白く塗られた木の素朴なテーブルの上に所狭しと並べられた海鮮料理は、前世のブイヤベースやパエリアに似ていて美味しそうに湯気を上げている。
大きな丸パンの中に詰め込まれたチーズたっぷりのグラタンやフルーツを甘く煮たコンポートにカスタードのかかったピザなど食欲をやたらと唆る食事の前で、エリーゼの言葉に一瞬固まるウィリアムとシルフィーヌ。
「はい、ウィル様に『あ~ん』をしてあげて、周りに見せつける練習をなさいましょうねッ♡ フィーヌ様!」
――ウィル様もフィーヌ様も周りに気を使った彼女なりの呼び方である。取り敢えず許可はもぎ取ったらしい――
「『あ~ん』って言われても・・・」
「溺愛コースには『あ~ん』はお約束ですよ?」
真剣な顔のエリーゼに、思わず想像だけで恥じらうシルフィーヌ。
そしてニヤつくウィリアム。
――ここへ来て殿下のほうが溺愛耐性が付いてきたようである――
「ほら、そこのスープとかを御口に運んで差し上げるんですってば~。ね? ウィル様も嬉しいですよね?」
「うん。確かに嬉しいな。食べさせてくれたら今度は俺もフィーにやりたい」
「ええッ!?」
結局真っ赤な顔のままのシルフィーヌと嬉しそうな顔のウィリアムは最後まで食べさせ合いっこをしていた。
「は~、尊い♡ 帰ったら絵おこししなくちゃ~ グフフ」
それを横目に邸に戻った後のお楽しみを想像してニヤつくエリーゼに2人は気がつかなかったらしいが・・・
×××
「この辺りは魔獣は出ないというのは本当の事なのか?」
帰りの馬車内でウィリアムがふと思い出してエリーゼに聞いた。
「ああ、父に晩餐の時に聞いてたやつですね?」
伯爵一家と共に昨晩食事を共にした時に伯爵が言っていた事だ。
「全く無いわけじゃないですけど、この辺りは塩害が強いため森がないせいもあるんでしょうね。この辺りの土地には凶暴な魔獣は現れません」
「そうなのか?」
「海中にも魔獣がいるってのは聞きませんよね?」
「「確かに・・・」」
「内陸に近付くにつれて魔獣の害が増えるんですよね不思議なことに。これ外国の船乗り達も同じ事を言ってましたよ?」
エリーゼが首をひねりながら、
「前世でお清めって塩撒いたりしたでしょ? ほら、相撲取る前に力士が撒いたり、お葬式の後だったり・・・」
「確かにそうだな」
「ええ」
「魔獣って塩が嫌いなのかもしれませんよ?」
「「・・・」」
馬車は静かに伯爵邸の建つ丘を目指して進んでいった――
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