42. 閑話 ゲームには無かった学園裏事情

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42. 閑話 ゲームには無かった学園裏事情

 「そう云えば、エリーゼ様の弟のダニエル様も例のゲームでは攻略対象者の1人だった筈ですけど、彼はどうされているのですか?」  すっかりエリーゼと打ち解けてしまったシルフィーヌがふと、この屋敷に彼女の弟の姿が見えない事に気がついた。 「あぁ、弟は王都の学園に入寮しております」 「学園に通っておられる?」 「ええ、我が家は元々商家だったこともあり、人脈を更に広げる為に長男でもある弟は王都の学園に通う事にしたんです。この世界の伯爵位って上位貴族とは言い難い所もありますし」  この世界の上位貴族として確実に認められているのは公爵家、侯爵家で、下位と確実に呼ばれるのは子爵、男爵、士爵位で、伯爵位は両者の中間辺りに位置しており微妙な爵位でもある。  中位貴族というのが妥当だが、そう云う明確な決まりもないのが現状なので各家の方針により、家を継ぐ予定の者は学園に通う者も多い。 「あの、『学園の華☆オリヴィエの胸キュンサクセス・ストーリー』ってゲームでは王子も上位貴族の子息子女も学園に通うことになってましたけど、この世界ではあり得ないお話しなんですよねえ」  何故か遠い目になるエリーゼ嬢。 「この国で上位貴族と呼ばれるのは4公、6侯と少ないですから各家で優秀な講師を招いて学ぶのが普通ですからね」  ――そうなのだ。  この世界では、『学園』に通う子息子女は基本的に下位と呼ばれる貴族家で家庭教師を雇えなかったり、この場にいないダニエルのように人脈の開拓が必要な者達が通う場所だ。  地方の領地貴族は次世代の惣領家との繋がりが希薄にならないように、顔繋ぎ目的で伯爵位であっても子供らが学園に通う事が多い。  それとは反対に高位の貴族家は少ないが故に王都近くに居を構えており、派閥はあっても互いに繋がりも強く、社交も密に行うため学園に通う時間が無いのが普通。  しかも彼らは国民の為の魔獣討伐まで行う義務がある。  当然だが王家の王子や王女も学園には通わない。7歳から執務もあれば外交もあり、12歳からは魔獣討伐まで熟す王家の子供にそんな自由時間は無い。  王家の子供は12歳で既に仕上がっていなければ失敗作だと言われていて、その為に国内外から優秀な講師を招いて教育を施すのである。  彼らの婚約者達も同様で各貴族家での教育は7歳までにほぼ仕上がりとされていてその後は王子王女と遜色ない教育が与えられるのは、他国の王家や上位貴族との縁組などもあり得る為である。  つまり、学園に通う子供らは下位に属する貴族子息子女、若しくは地方出身者、後は特殊な事情――例えば12歳までに継承する爵位に値するだけの教育が間に合わなかった者、他家からの養子等がそれに当たる――のある者と言えるのだ。  つまりウィリアムもシルフィーヌも、その他の高位貴族の子息子女も学園には在籍しておらず、式典や催事に出席するためだけに学園に足を運ぶのだ。    ウィリアムは単純に王族の義務。  他の者は言うならば自分の派閥の子飼いの為に顔を出すのである。  総領家の嫡男嫡女が顔を出す事でその派閥の士気が上がる、いわばそれだけが目的。  ゲームのように王子や公爵令嬢が学校にいるはずが無いのがこの世界の常識である・・・ 「現実に則していない部分のゲーム強制力ってどうなるのかしら?」 「どうなんでしょうね? その部分だけが記憶喪失にでもなるんでしょうかね。都合の悪いことは覚えてない、的な?」 「ボケた人みたいね」  女性2人が楽しそうに話をしているのを眺めながら、 「マジか・・・ゲームタイトル俺今初めて知ったわ」  ウィリアムが窓際のソファーに座ったまま独り言を呟いた――  中身が若干オッサンの彼には小っ恥ずかしいタイトルだったようだ・・・
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