44. 悩む王子様

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44. 悩む王子様

 「俺、な~んにもできてねえのかも」  今夜一晩を過ごして、明日の朝には王都に帰る予定のウィリアムである。  報告書も書き終え、そもそもが荷物も大した量ではないので帰りの準備は終わらせた。  あとは寝て、朝が来るのを迎えるだけ。  そんな彼ではあったが、エリーゼの領地改革の様子を視察で知って自分とは大違いだな、と感じてここに来て若干凹んでいるらしい。  生まれついたのが王家だったので仕方ないのだが、ベルトコンベアー式に跡継ぎまっしぐらの生き方しかできていないと感じていたウィリアムにとって、エリーゼの領地での働きは正直素晴らしいものだったのだ。  まあ、若干人間性に関しては不信感がないわけでは無いのだが・・・特にシルフィーヌに向ける視線がやたらとギラギラしている辺りがなんとも言えない。  それを差し引いても彼女の領地に関する貢献度は高いものなのだ。 「生まれ変わってから俺、なんかしたっけ?」  シェーズロングソファーに寝っ転がって天井を睨むウィリアム。 「駄目だ思いつかん」  姿勢を俯けに変えて顔を座面に思い切り埋めて、ガックリする。 「残念だが親父の執務の手伝いと、王子としての鍛錬と魔獣狩りしか出来てねぇわ・・・生まれ変わった時は冒険者になるんだって鼻息荒げてたのになぁ~」  確かに生まれた家が悪かった。だって王家なんだよな~、代継なんだから王子教育で手一杯。  その中でも自分を鍛える事は疎かにはしなかったが・・・ 「しかも乙女ゲーム。最近周りが妙にきな臭いしな・・・」  本の作者の謎は解けたが、男爵令嬢の動きが乙女ゲームのストーリーの通り過ぎて正直な所、気色が悪い。  国王陛下(オヤジ)が今回のコリンズ領の視察に婚約者であるシルフィーヌを同行させることに何やら難色を示していたという報告も受けている・・・  それとゲームのストーリーが分かりやすい原本を読ませて貰ったから分かったことがある。 「ゲームの通りには絶対になりようがないはずなんだが・・・」  そもそも、婚約者のシルフィーヌもだがウィリアム自身、学園に通っていない。その為オリヴィエを虐めたなどという阿呆らしい理由で彼女を断罪できるはずがない。  なのに今現在のウィリアムの周りでは男爵令嬢がゲームの通りにクッキーを焼いて持ってきたり、噴水に突っ込んでびしょ濡れになっている所も見かけたし、剣技の模擬試合に訪れ学生との手合わせを行うと、ここぞとばかりにタオルを持ってウィリアムの汗を拭こうと襲いかかってくる・・・  それを周りも当たり前のように受け入れ微笑ましそうに見守っているのが尚不気味だ・・・  それと、シルフィーヌの見た目がゲームのストーリーのように地味に変貌せざるを得なくなってしまった怪奇現象。 「王都に帰りたくねえ~・・・」    明日からの王都での活動に胃がもつとイイナと溜め息を付くウィリアムである。 「隙を見て行ってくるか・・・」  首のチェーンを指先で弄りながらもう一度大きく溜息をつく――  窓から明るい三日月が見えていた。
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