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4.騎士団長と王子様
国境に向かってせっせと進む二人は旅人が使う薄手の皮のマントを羽織っただけで、平民がよく着ている綿織物のシャツにトラウザーズ、皮のロングブーツだ。
全く荷物を持っていないので、ちょ~っとその辺りを恋人同士が馬で散歩しているように見えないことも無いが、ちゃっかり空間魔法で荷物を隠し持っているため軽装に見えているだけ。
一応武器は王子が腰にソードベルトを巻いて、剣をぶら下げているのでイザという時には軽く対応位できるんじゃね? という程度。
そんな呑気に見える二人の後ろに続く田舎道から、かなりのスピードを出した馬の蹄の音が聞こえてくる。
「あ。追手かも・・・」
「うーん、そうかも知れんな」
知らんぷりは出来そうにないな、と二人は顔を見合わせて眉を下げた。
×××
「殿下ッ! お待ち下さいッ!」
野太い声の主は王宮騎士団長である。立派なガチムチの筋肉達磨で、甲冑を着けると馬の負担が半端ねえだろな〜とか、つい考えるウィリアム。
まあ団長の馬は馬型の魔物と普通の馬の間に産まれる、『魔馬』なので見た目以上に馬力があるのだが・・・勿論ウィリアム達が乗っている黒い駿馬も同じ様に魔馬である。
彼はウィリアムが幼い頃から手ずから飼葉を与え水浴びをさせブラッシングして育てた親友だ。
「殿下、何故出奔されるのですかッ!」
無骨な髭面のオッサンがつばを飛ばして目をカッ開いて喚く姿はお世辞でも美しくないな、と遠い目をする王子様。
「団長。お前、あの貴族達の様子でまともな事言って通じると思うのか?」
「・・・いや、しかしですな」
「お前ンとこの息子もおかしくなってるの分かってんだろ?」
「ええ。ですからこそマトモな判断力のある殿下が居なくなってしまうと、国が混乱するのでは?」
「大丈夫だ。そのうち全員が正気に戻る。あの令嬢の使うであろう魅了魔法はもうすぐ効力を失うからな」
「え? 魅了魔法?!」
「うむ。断定は出来んがおかしな連中はそれに近い状態になってるからな。酔っ払いも時間が経てば目が覚める。それも調べる様に魔塔の主達には通達してある」
魅了魔法って酔っ払うんだっけ? と思わず首を傾げるシルフィーヌ嬢・・・
「あの男爵令嬢、ああいや、アボット家は子爵になったのか? アレに好意を寄せてなかった連中はマトモだからな。お前だってそうだし、俺の弟のアダムも婚約者に夢中だからマトモだろ?」
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