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46.エリーゼ嬢からのエール
コリンズ伯爵邸で最後の朝食を伯爵一家と共にし、帰りの馬車まで移動することとなったウィリアム達一行。
「どうしたんですか殿下? どう見ても昨日より額にシワが増えてますけど?」
目敏くエリーゼがコソッと声を掛けて来た。
「ああ。まあ。生まれ変わった意味を考えて昨日の晩ちょっとだけ悶々としてたんでな」
「生まれてきた意味?」
シルフィーヌをエスコートしながら長い廊下を進むウィリアムが眉根を下げる。
「エリーゼ嬢と比べたら、俺は何も前世と変わってない気がしてな」
彼の前世は所謂会社勤めのサラリーマンで、毎日眼の前の仕事に忙殺されていて自分のやりたい事や好きな事など二の次だった。
と言っても、そんなにやりたいことがあったのかと聞かれると謎だが――
「今生も眼の前の仕事を熟してるだけじゃないかと思ってちょっとだけ虚しくなったんだ」
「え? ウィルそんな事考えてたの?」
「ああ」
エリーゼはちょっとだけ首を傾げると
「でも、魔獣狩りなんか前世ではしてなかったでしょう?」
「だが、あれは王族や高位貴族の責務の一環だから仕事みたいなもんだ」
「う~ん確かに。じゃあ、殿下は今生でしかできない事をやればいいじゃ無いですか」
「「?」」
「乙女ゲームをひっくり返す。それこそ殿下しか出来ない芸当でしょう?」
「・・・・」
「コリンズ領の辿るであろう過疎化っていう、前世でも日本各地で問題になってたモノを私はひっくり返す為にここに来たんじゃないかと思ってます。領民の笑顔を見る度に。でもあのゲームの中で私はただのモブです」
「フム。成る程」
「殿下とシルフィーヌ様はゲーム内では主要人物です。だからその運命を全力でひっくり返す権利もあるわけじゃないですか」
「権利か・・・」
「権利なのですね」
「どうするかは御二人次第です。できれば抗って欲しいですね。決まった通りに粛々と生きるなんてつまらなく無いですか? どうせ生まれ変わったっていう記憶は消せ無いんですからきっちり利用しましょうよ」
エリーゼが薄紫の巻き毛を揺らしながらニヤッと笑った。
×××
コリンズ領から出発する直前の馬車前で
『帰りの道中もちゃんとお膝抱っこなさって下さいね。毎回やらないと癖付かないからマメにやらなきゃ駄目ですよ~~』
と。
エリーゼ嬢に謎の圧を掛けられたせいなのか、はたまた彼のだたの開き直りなのかは全く分からないが膝にシルフィーヌを乗せたままで、車内チェックをするために窓から覗いた王都の門番を照れさせ、馬車が王城の門をくぐる際の確認の時は見張りの兵士達を2度見させ・・・
王宮のエントランス前に降り立つ直前まで膝の上の婚約者の肩にべったりと顎を乗せたまま溺愛アピール(誰に?)を無駄にしながら帰ってきたウィリアム。
シルフィーヌは恥ずかしすぎて息も絶え絶えで瀕死寸前だったが、ウィリアム殿下はお肌ピチッピチの元気溌剌で彼女をお姫様抱っこをしたままで馬車のタラップを降りて来る始末だった・・・
「ヨシ。俺はやる!」
彼の決意表明を他所に地面が恋しいシルフィーヌ嬢は、穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったらしい・・・・
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