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52. 閑話 母子の密談
「ねえ、アレどう思うよ?」
「アレって、兄上ですか?」
王妃がコクコクと頷いた後でニヤニヤ笑った。
×××
辺境区から魔獣討伐の遠征要請があったらしく、騎士団長がウィリアム王子に面会を求めてやってきた。
ティーカップの中の砂糖の山を見て意識を飛ばしている最中の王子を、王妃が強制連行させた後の執務室である。
「兄上って自分が女性に人気があるってことに関しては無自覚ですよね。昔からですけど」
「そうなのよねぇ、ていうかフィーちゃんが自分の事好きなのが信じられないって顔しちゃってさ。どういう事よ? 何年婚約者やってるんだか」
はぁ~、と思わずため息を吐く王妃様。
「今日気が付きましたが、兄上は結構中身の年齢を気にしてますからそれでしょうね原因は。所詮前世の事なのに・・・」
一瞬顰め面をしたが、すぐに元の顔に戻り優雅にティーカップを持ち上げて首を傾げるアダム。
「フィーちゃんに前世の年齢教えちゃったから、自信が無いって。我が息子ながら馬鹿なんじゃないかしら? 教えなきゃいいのにねぇ」
「うーん。その辺は判らないですけど、僕はどちらかというとシルフィーヌ嬢が兄上が大人びてるから、自分が子供扱いされてるって勘違いされてるような気がするんですけど?」
「でも、どう見たって好き合ってるわよねえ~」
中庭の茶会でシルフィーヌを見つけた時に大型犬が尻尾をブンブン振っているようにしか見えないウィリアムと、その姿を甘い視線で見つめる彼女を思い出してつい天井を見上げる2人。
「周りが砂糖を口から吐いてるッ! って、本人達は全く気がついてないのよね~・・・」
ウィリアムが出ていったドアを哀れな顔になって見つめる王妃と、ソレを呆れ顔で見ているアダム。
「無自覚で『好き』が駄々漏れですからね~二人共が」
「サッサと結婚させちゃうおうかしら」
「いや、まだシルフィーヌ嬢の方が16歳になってないですからね? 兄上が18歳、シルフィーヌ嬢が16歳になったら婚姻するっていう魔法契約でしょ?」
「この国15歳で成人なのにね。やっぱり酔っぱらいは駄目よね。魔法契約なんかしちゃうから日程の繰り上げも繰り下げもできないじゃないのさ!」
フンフンと鼻息を荒げる王妃。
「公爵邸ではそろそろ婚姻のための準備を始めてる筈ですけど」
「そうね~フィーちゃんの花嫁姿楽しみだわ♡」
ルンルンと楽しそうに、執務机の書類を高速で捌く王妃様。
「あら? 何か変なものが混じってるわよ・・・アボット家に対する登城命令書がなんで財務処理報告の書類に混じってんの?」
アダムが片方の眉を動かすと
「例の鉱石の事ですかね?」
「たぶんね。コレを見る限り、アボット家の鉱山の場所を立体的に投影する為に地図を持参ってことになってるわね。魔塔の魔法使いが同席するみたいだわ・・・アダム、その話知ってた?」
「いえ。文官からの報告はないですね、そもそも王家主体にするのか貴族院に任せるのか話し合いも進んでませんから。ただ、陛下宛の書類は全て母上か私達の方に1度回ってくるように徹底しましたからね。そのせいだとは思いますが・・・僕らに隠れて陛下は何やってるんだか。それ、いつになってます?」
「1週間後だわ」
「通達1週間じゃ貴族院は全員集められませんから、出席は議長位でしょうか」
王妃が眉を顰める。
「そうかしら? わざと呼んでいないのかもよ?」
「・・・王家主体で鉱石事業を始めるつもりでしょうか?」
「・・・ウィリアムが許さないわよ。私もだけど」
机の上に置かれた命令書をジッと二人は見つめた。
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