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53.討伐要請
王宮にある王妃の執務室から王城の軍務棟へと移動するウィリアム王子。
明るい赤銅色の髪にブルーサファイアのような瞳、高い鼻筋に形の良い鼻梁。
その精悍な顔つきに似合う様な、しっかりした体躯とスラリと長い手足にも筋肉が程よく付いていてまさに美丈夫と言うに相応しい容姿である。
隣にはガチムチの髭面のオッサンが並んで歩いている為、差が半端ない・・・
実はつい先刻まで使い物になりそうになかった呆けた表情をしていたウィリアムを見て心配だった騎士団長。
彼が無事何処かに腑抜けた表情を押しやって何時もの王子に戻ったようで安心した所である――ホッ・・・
軍務棟を行き交う文官や武官達は男性だけではなく女性も勿論いるわけで、王城勤務の女官達も普通に通路を使用するため王子が通り過ぎる時に道を開け恭しく頭を下げるが、行き過ぎた後で
『見ちゃった♡』『カッコいい~』『引き立て役がいると益々イケメンね』
とまあ、ポーッとなったりキャッキャと喜んで王子の後ろ姿を見送っているが、本人は生まれてこの方、王子をずっとやってる為全く気にならない。
要するに見られ慣れているのだ。
この辺りが自分が女性にそんなに人気があるのが分からない所以だろう。
――残念なヒーローである。
×××
「辺境伯領の近くか?」
「はい。東部の森です。現在東部辺境伯領の私兵は西側寄りの森に遠征中でして、珍しく援軍要請が来ました」
「間が悪いな。魔獣の活発期じゃないのにか?」
「ええ、通常なら大人しくしている時期なんですが。こんなの初めてですな」
通常魔物は春先から夏にかけて活動が盛んになり、凶暴性が上がりやすい。
食料となる森の実りはあまり多くはないのだが、繁殖のための番を得るために行動する個体が多いからだ。
今はもう既に夏も終わり秋から冬に差し掛かっている時期だ。
食料も多く一番落ち着いているであろう時期に魔獣被害が出るのは珍しい。
「なにか分かった事があるか?」
作戦本部の中央にある大きなミーティングテーブルにカートレット王国の地図を置いて、魔獣被害の報告のあった場所を確認している騎士や武官達を横目に顎に手を置いて考えるウィリアム王子。
「例の鉱石が見つかった辺りが中心になってますね」
「アボット家のアレか?」
「はい」
若い武官らが地図の上に赤いマーカーを配しながら、
「アボット家から申告のあった山岳地帯を中心に広がってます。ただしその採掘が出来るという場所近くでは被害報告は上がってませんね」
「辺境伯領の私兵の駐屯地は? その青いマーカーか?」
「はい」
「随分離れてるな、団長、出立の時刻は?」
「現在準備中ですが最速で昼前には出発できます」
「分かった。直ぐに出る」
「殿下、視察が昨日終わったばかりでは?」
困ったような顔をする髭面の騎士団長。
「大丈夫だ。視察が却っていい休暇になった」
「では、準備を」
そう団長が言った途端に出入り口で待機していた伝令が廊下に向かって姿を消し、残った武官や騎士達が準備の為に席を立つ。
部屋の中が一瞬で慌ただしくなった。
ウィリアムはそれを他所に地図を睨んで首を捻っている。
「アボット領の山岳地帯にあの鉱石があるせいなのか? だが、鉱石がそもそも浄化魔力を蓄えているわけじゃ無いしな・・・偶然か?」
彼は眉根を寄せて顰め面になった。
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