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58. 魔獣①
魔獣狩りの対象である個体は、攻撃力の殆どない通常種スライムのようなCクラスから始まり最高クラスが幻獣と呼ばれるSSSクラスに分類される。
最高クラスは災害級の魔物だが、寧ろ御伽噺だと言っていいくらいには滅多なことでは現れるようなものではない。
SSクラスで大型ドラゴン級になるが、これも人里に訪れることはほぼない。
厄介なのはA~Sクラスで群を作り移動速度も攻撃力も高い魔獣だ。
今回の討伐は大量発生をした魔獣の群れが移動して被害が拡大しているというスタンピード一歩手前の厄介な依頼だった。
「やはり、鉱石が採掘出来るという山を中心に逃げるように魔獣が移動しているようです。グレイウルフのような中型から、スケラーベアのような大型のモノまでが群れで移動してますね」
双眼鏡を覗く団長がウンザリした顔で、こちらを振り向いた。
「お誂え向きといえばいいのでしょうか、此方に向かってきてます」
「追い駆けるより手間が掛からないから良しとするしかないんだろうな」
ウィリアムが肩を竦めるがコチラも同様に表情はウンザリ顔である。
「ドラゴンなら一対一だから楽なんだが」
それも楽じゃないですよ殿下、と誰もが言いたかった・・・
「来たぞ。あいつらの都合で人里に近付けさせるわけにはいかんからな」
土煙が上がり、微かに唸り声や蹄が地面を蹴るような音が聞こえて来る。
まだ魔獣は見えないが、魔法使い達が一斉にワンドを使って魔力を集中させる。
騎士隊が弓を引き魔力を込める。
「全隊構え!」
号令が響く中シルフィーヌはウィリアムの横で緊張した表情で正面を見ていた。
因みに婚約者だから横にいるわけではない。
戦場であっても身分によって立ち位置が決まるので、王族に次いで公爵家である彼女がすぐ横になるだけなのだが彼女にとってはちょっとだけ嬉しい並びである・・・
何しろ彼女にとっては初めての魔獣討伐で不安が無いわけではない。
直ぐ側に婚約者がいると思えば心強い。
「フィー」
「はい?」
「先刻天幕内で説明したように撃ち漏らしは必ずと言っていいくらい出ると覚悟しているな?」
ウィリアムが此方に顔を向ける。
何時もの穏やかな顔をしているのが少し意外だ。
「いいか、フィー。先制攻撃の撃ち漏らし個体は一匹残らず躊躇いなく屠れ」
「え、はい」
ウィリアム達王族と高位の貴族達、そして一部の私兵は遊撃という立ち位置に今回の作戦では割り振られている。
全隊が今準備している魔法は麻痺で、隼の魔鳥が知らせてきた種類の魔獣には確実に効果があり一斉に足並みが止まる事が予測できるがそれを抜けて来たものは麻痺以外の魔法、若しくは物理攻撃で止めなければいけなくなる事が予想される。
瞬時に魔獣の弱点属性を見抜く鑑定魔法を使い対応できる魔法を発動させる必要があり、それが長丁場になればなるほど魔力を消費する。
膨大な魔力を有する彼らにしか出来ない役割でもある――
「魔獣は、敵だ。殺らなければ此方が殺られる。見た目が恐ろしいモノだけが魔獣ではない気をつけろ。見た目に騙されるなよ」
「え・・・?」
シルフィーヌは彼の言葉の意味がその時は分からなかった――
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