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61.実は最凶は・・・
「先制隊、撃てぇッ!」
騎士団長の号令が辺りに響き、魔法使い達と弓を構えていた騎士や公爵家の私兵達が一斉に前方へと麻痺の効果のある魔法を撃つ。
雷のようなパチパチとした閃光が軌道を描きながら物凄い速さで魔獣に向けて飛んでいくのが目視ではっきりと分かった。
「大勢の魔法が1つになるとあれ程はっきりと肉眼でも見えるようになるのですね・・・」
大きく目を見開き、興奮した様子でその様子をマジマジと見つめるシルフィーヌ嬢。
「ああ。此処まではっきりと見えるのは、魔力の強い兵士が多いからだが、この人数が集まること自体が少ないからな。珍しいかもしれん」
ウィリアムが顎に手を当てながら考えるように彼女に答える。
「つぎは俺等の仕事だ。フィー行くぞ」
「え。は、はいッ!」
遊撃隊は騎士団長及びウィリアム王子とシルフィーヌ達貴族子息子女の役目だ。
彼らは自分の愛馬から降りて徒歩で森の中を進み始める。
比較的秋の森は広葉樹が葉を落としているため想像より随分明るい。
「来たぞ。麻痺が効かん厄介な連中だ」
あまり聞いたことのないような、『キリキリ・・・』という音が聞こえ眼の前の大木の影から現れたのは大きな白いカマキリの魔獣だった・・・
×××
「昆虫系の魔獣は麻痺が効かんからな。森の中だから彼奴等のいちばん苦手な火魔法が使えん」
あ~やれやれ、といった様子で氷魔法を纏わせた長めのツヴァイハンダーを片手でひょいひょい振り回しながら、巨大な蟻の魔獣の関節部分を次々と真っ二つにしていくウィリアム。
「ちまちま狩るのも面倒くせえなぁ」
最後の巨大な蟻の身体を真っ二つにした後で隣で杖から風魔法の刃を放出する婚約者に目を向けると若干顔色が悪い事に気がついて苦笑いをした。
因みに彼女の相手は、巨大な毛虫だ・・・。
油断すると毒針を此方に発射するので油断できない相手でもある。
侯爵家の子息たちは先程のカマキリに雷魔法を落として白いカマキリを黒焦げにして溜息をついている・・・
「まコイツラに比べたら4本足は可愛いもんよ」
「そうですなあ~」
騎士団長がバスターソードを腰に吊るしたソードベルトに付けた鞘に戻しながら
「蜘蛛が居ないのは有り難いですな」
ウンウンと頷いている。
彼らの周りには、巨大な虫の魔獣が山に積まれ香ばしいような妙な異臭を放っている。
血塗れの魔獣達の死骸は赤い血の生きものはほとんど居らず、青や緑の体液を流しているモノが多い。
「そういや。蜘蛛女がいねえな」
その言葉で、シルフィーヌは人間の女性の上半身を蜘蛛の体の上に乗せた異様な姿の魔獣を思い出してゾッとした。
「彼奴等は魔法を使いますからな」
「そういや、今回暴走した連中は魔法を使わない魔獣達ばかりだった気がするな。なんかあるのかもしれん・・・」
そう言いながら首を傾げるウィリアム。
人と変わらないサイズの毛虫を倒し終わったシルフィーヌは
「気持ちワリィ・・・」
手強い魔獣より、精神的にゴリゴリ削られる気持ちの悪い魔獣がひょっとしたら最凶なのでは、と思ってしまったらしい・・・
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