71. 不必要なのは・・・

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71. 不必要なのは・・・

 このままでは前世で知った物語と同じ展開になってしまうに違いない。  私の大切なお嬢様があんな酷い目に遭うなんてそんな馬鹿な・・・焦りを感じた私は何とかお嬢様を救う手立てを見つけようと、前世の記憶を頼りに自分なりに覚え書きを作って何か抜け穴は無いものかと毎晩のように読み返してはその方法を模索した。  同時に王都の情報通だといつも吹聴しているメイドに取り入って王子達の噂を教えてもらうことにした。  同僚のメイドには同い年の従妹がおり、その実家が王都ケインズで貴族相手の商会を営んでいて従妹はそこで手伝いをしているらしく王都の流行りや色々な出来事を手紙のやり取りで知っていたのだ。  彼女は仕入れた情報を辺境伯邸のメイド溜まりで自慢気に吹聴するのが趣味だったが、実はその態度が偉そうだと周りから陰口を叩かれていて少し敬遠されていたのだが、私が上手く(おだ)てるといくらでも欲しい情報を調べてこっそり教えてくれるようになった。  この世界は魔法が発達していて電話やスマホ程ではないが魔法便と呼ばれる文通手段があり、貴族だけでなく裕福な平民なら気軽に買うことができる便箋と封筒のセットに特殊な魔法のインクで文字を書くと手紙自体が蝶々に変身して指定した相手に届くという不思議な魔道具があるのだが、それを使い彼女は王都に住む従妹と頻繁に文通していたので意外に情報は最新のものだったので驚いたのを覚えている。  その中でも私が飛び上がるほど喜んで感謝するのがウィリアム殿下とアダム殿下に関する事だったので益々彼女はその情報を取り寄せてくれるようになった。  この国の女性に人気がある彼等の事なら知りたいのは当然だと思ったらしい。  自慢気にその手紙を見せてくれる様にもなったのだが、ある日見せてくれたモノの中に王都にヒロインが現れて王子達、特に第1王子殿下の周りに小賢しく出没していると書かれているものがあった。  ただ私も知らなかったが、王太子とその男爵令嬢が繰り広げる真実の愛と王太子が婚約者の令嬢を断罪するという内容の歌劇が王都で流行っているせいで、下位の貴族令嬢が殿下に纏わりつくのを誰もが咎めないという風潮が王都では出来上がっているらしいのだ。  それを読んだ私は、成る程、そのせいで跡継ぎの王子二人を王家が廃嫡する事になるという、どう考えてもおかしな物語に繋がるのかと納得した。  前世で知った物語では婚約者がありながら不貞行為をした王子達二人を契約不履行という形で王家が責任を取り廃嫡するに至ったという経緯が書かれていたのだが・・・ 『じゃあ、不貞にならなければいいじゃない?!』  私はこの事に気がついて飛び上がるほど喜んだ――王子達に婚約者がいなければ『不貞』も『契約不履行』起らないじゃないの!  しかもこの国の4公6侯爵のうち王子達と釣り合いの取れる年頃の娘がいるのは2家だけで、その2人共が王子達の婚約者。  その次に彼らに相応しいとされる身分の女性は伯爵家層となる。でもその中でも筆頭に来るのは一番身分が高く王家に近しい辺境伯家になる。  となればこの国の三つの辺境伯家で王子達に相応しい年頃の女性は私のお仕えするマリアンヌ様だけ――  一筋の光明が見えた気がした。
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