74. 国王陛下疑われる

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74. 国王陛下疑われる

 「う、ウオッホン、いや。アレクシア、相分かった。確かに午後はそなたの自由時間だな」  部屋の中に居た一部の文官が胡乱な目で一瞬陛下をチラ見したが、それ以上誰も何も言わなかった。 「で、この集まりは審議中のアボット領で見つかった魔石結晶のことですわね? 陛下」  にこおっ、と擬音の付きそうな笑顔で王妃が夫である陛下を振り向く。 「う、うん。そうだ。あの土地は王家で一時預かりになってはいるが、結晶にどのくらいの価値があるのか、どの程度の算出量が見込めそうなのかを知るためにも一度確認しないといけないと思ってな」  ふむふむと顎に手を当てて考える仕草の王妃。 「王家主導にするのか、貴族院で有志を募るのかを決める前に正確な情報を収集しておけば後々楽になると思ってだな、此度王城にアボット男爵を招いたのだ」 「其れは素晴らしいですわね。先を見据えての此度の招集でしたのね」  おほほほと朗らかに笑うアレクシス。  そしてそのままウフフフ・・・と笑いながら扇で口元を隠し、陛下の耳元でそっと呟いた。 「でもアボット家のご令嬢まで招く必要が御座いまして? 『デイビス』?」  そうなのだ。  何故か父親であるアボット男爵に付き従い、養子となったオリヴィエ嬢もこの部屋に来ているのである。  本人は何やら王家側の不穏な雰囲気をよそに初めて目にする王城の調度品に目だけをキョロキョロとさせて、感心しているように見える。まぁ、お行儀が良いかと言われると良くはないのだが、ごく最近まで平民だったのだから仕方ないのだろう。  視線が動くたびにぴょこぴょこと僅かに動くピンクのアホ毛に生温い視線を向ける王妃様・・・  そして自分の名前を妻である王妃に耳元で小さく囁かれて、ぎくうっ! と背筋が伸びる国王陛下。  彼の経験上、王妃が自分の名前を口にする時は必ずと言い切っていい位には、後ろ暗い事、そう、特に女の影を疑われている時だから――である。 ×××  若い時から陛下はモテていた。  そう、夜会や茶会に招かれるたびに様々な女性からその手のお誘いを受けるくらいには。  流石に王家の種を拡散するような真似はしなかったが、ギリギリ一歩手前くらい迄は踏み込んでしまう事も度々あった。  アレクシアとの婚約後にも実は一緒に参加した夜会で一度だけ、しでかしたことがあり、彼女に現場を嗅ぎつけられてコテンパンにその時の相手と共に叩きのめされたことがある・・・  陛下――その頃は王太子だったが――は、トラウザースが履けないくらいには尻が腫れ上がり――得物は今手にしている鉄扇だ・・・――相手の伯爵家のご令嬢は夜会会場の庭にあった、5メートル位の庭木の天辺にアレクシスの風魔法で放り上げられ置き去りにされた。  実に苛烈である。  当時の国王夫妻からは『デイビス王子が国政を乱すような行動を起こした時に対するお仕置きの許可』を婚約時にキッチリ取り付けてあった為、アレクシアの行動は誰にも咎められることは無かった――寧ろ前国王夫妻に褒められた。  その苛烈とも言える性格が斬新すぎて彼女に惚れてしまった彼はそれ以来、妻一筋(その頃は婚約者)になったのだが、まあ、根っからのお調子者なので度々アレクシアの鉄扇がうなりを上げる事となった。  しかし、その際に『デイビス?』と名前を呼ばれる時は女絡みの時だけだという事に流石に気がついた。  今、非ッ常〜にヤバいのではないかと不意に気が付き、背中に冷たい汗が流れる国王陛下。  実に緊張感漂う謁見室である。
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