75. 赤い石

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75. 赤い石

 王妃の冷たーい表情と、『デイビス』呼びに疑われている事に気が付き、今更ながらあわてる国王陛下。 「あ、いやアレクシア、その何だ。彼女は別に私が呼んだわけではないぞ?!」  王妃の耳元に口を寄せてヒソヒソと告げるイケオジ。 「あら、でしたら何だってこの場にいるのですか?」  怪訝な顔になりまり首を傾げるアレクシア。 「ウ~ン・・・私にも判らん。何故だ?」 「・・・」  国王夫妻が何故か玉座に座ったままでナイショ話をする傍らで、宰相が本日の会談の目的を読み上げているのに耳を傾けながら相槌を打つアダム王子。  取り敢えずこんな感じで陛下が王妃達に内緒で招集した会合が始まったのである。  一方、登城命令を受けてやってきた男爵は何故自分が娘を一緒に連れてきてしまったのか・・・と、内心首を捻っていた。  王城に登城する事はタウンハウスの使用人達も知っていたので、彼女に誰かが教えたのかもしれないが 『自分も一緒に登城したい』  と、当日の朝に言われてしまいそれが当り前のように思えて了承してしまったのである。  アボット家がオリヴィエを嫡女として迎え入れてから、その時は当たり前だと思っていても後でよく考えるとおかしいと思える様な出来事が何度か起こっていた。  それは自分自身だけでなく妻や家令、使用人も含め全員がまるで考えるのを放棄したように当たり前だと受け入れるのである。  なので誰も止めないし、誰もが異論を唱えない。  そして時間が経てばあった事そのものが有耶無耶になる。 気が付くと、 『気のせいか?』  になってしまうのだ。  アボット男爵も宰相が本日の会談の目的を読み上げているのを耳にしながらも言いようのない違和感を抱くが、どうにも頭の中がボンヤリと霞んでしまい考えは纏まらない。  自分の隣に座るオリヴィエに視線を向ける。  首に輝く透明な赤い石をペンダントトップにしたネックレスが目に入ると益々考えられなくなり彼は一瞬困惑したが、次の瞬間には自分が何を考えていたのかすら忘れてしまった。  今日の集まりは領地で見つかった新しい鉱物をどう利用していくかという重要な会議なのだ。  ボンヤリして宰相の言葉を聞き逃してはいけないのである。  宰相の言葉を聞くために姿勢を正し、彼は改めて聞き耳を立てた。  オリヴィエの首元で一瞬赤い石がキラリと光ったのを誰もが気が付かなかった。
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