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80. オリヴィエ・アボット⑤〜出会い
領地経営を学んでる男の人は大抵の場合殆どが長男だ。
だからアボット家に婿養子を求めるんなら私がしっかりしなくちゃいけない。
だって領地経営を学んでいる次男や三男は、大抵は婚約者が決まっている人達だから。
そう思うのが当然なのに何だかうちの家族は凄く楽観的だと思う。
『平民混じり』
なんて陰口を言うような貴族が多いのが事実だってことを学園に入って知ってからは、アボット家の婿なんかに貴族の次男三男を婿に貰うのなんか私には無理じゃないかって思うようになった。
小さい頃からお祖父様に家庭教師を付けてもらってたから授業自体は困らないけど領地経営なんて分からない。
アボット領はまだまだ発展途上の領地だから、女の私でも学ばなければいけない事は多いし、いざとなったら私が領地を守らなくちゃいけない。
もっと勉強しなくちゃって思って学園の図書館を利用するようになった。
こんな事なら淑女科なんか選ばずに経営学科でも選んでおけば良かったと思う。
でも、慌てて選んだからなぁ。溜息も出ない。
高い本棚から経営学の本を取ろうと背伸びをしてたら、
「これがほしいの?」
って、目的の本を取ってくれた人がいた。
薄紫の綺麗な髪の毛に海のような青い目をした男の人。
学園の制服の胸ポケットの刺繍がグリーンだから多分3年生だ。
「経営に興味があるの?」
ていうから、頷くと
「僕の姉さんみたいだ」
そう言って凄く自然な笑顔を見せてくれた。
「僕の姉さんは独学で領地を凄くもり立ててるんだけど、僕が領主になる暁には寄生させて貰うって言い切るんだよね。でも僕より多分経営手腕は上なんだ」
「すごいお姉さんですね」
「負けてられないから僕も頑張ってるんだ。君は1年生?」
「ハイ。でも淑女科じゃなくて経営学科に行けば良かったって今は後悔してます」
穏やかに笑う彼。
「じゃあ、今度勉強を見てあげるよ。僕は君の行きたかった学部の生徒だから。名前はダニエル・コリンズ宜しくね」
「は、あ、ハイ、わからない時は宜しくお願いします先輩」
貴族っぽくなくてなんかいいなぁって思った。
×××
図書館でコリンズ先輩にお勧めされた本を何冊か借りる手続きをして、寮に帰る道をショートカットしようとして中庭を通った。
そしたらベンチで寝っ転がってる人が居るのが見えてギョッとした。
サラサラのプラチナブロンドが凄く長くて、一瞬女子生徒が倒れているのかと思ったからだ。
よく見たら男子生徒の制服を着てたからホッとしたけど。
――イヤイヤイヤイヤ、普通の人はこんなとこで昼寝しないよね? 絶対に関わりになりたくないよ!
そろりと中庭から退散しようとして本を落としてしまったら、ひっくり返ってた人が突然飛び起きて機嫌悪く
「誰だッ!」
て唸るように怒鳴ってこっちを向いた。
紺色の瞳は切れ長で、何処か第1王子殿下を思いだすような風貌。
「俺の昼寝の邪魔したのはお前か?」
――ひぃッ!
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