87. オリヴィエ・アボット⑫〜バリッと庶民出なのよッ

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87. オリヴィエ・アボット⑫〜バリッと庶民出なのよッ

 「恐れながら、カートレット辺境伯子息様」  身分が上、しかもれっきとした王族の一人である彼に向かいこちらから発言するのは公式の場なら不敬だろうが、ここは学園内だ。寮内も学園内とみなされるからこそ伯爵家の、『んまぁ~なご令嬢』にも口答えができたのである。ここで言っておかねば後々面倒なことになりかねない。 「私はアボット家の嫡女。跡継ぎ娘でございます。家を継ぐためにこの学園に貴族子女としての資格を得に通っているのでございます」  ――だから俺様なアンタの婚約者なんか冗談じゃね~よッ!  彼女の心の声は庶民丸出しだったが、家庭教師の教え通りに深く頭を下げたカーテシーをもう一度くりかえしながら、そう言葉を続けた・・・が。  ――それよかこの姿勢をはよやめさせてちょうだい! キッツイのよねッ! 気が利かない男なんかこっちからお断りだわよぉおおおおおおぉッ!  膝がぷるッぷるしながら耐えるのは付け焼き刃なので辛いものがあるが頑張って耐えるオリヴィエである。  ピンク色のつややかな髪に華奢な姿、王妃様曰く『叩いたら折れそうな儚げな美少女』である彼女の肩がぷるぷる震えているのは単に筋肉の痛みを我慢しているのだが、恐れ多くて震えているように第三者からは見えたようで・・・ 「アインス、もうやめろ。その子が怖がっているだろう?」  有り難いことに誰かが声を掛けてくれたのである。  ――誰だかわかんないけどありがとうッ!! 「なんだ、お前学内に用事でもあったのか?」 「まぁな。学園長に来週の剣技試験の事で相談があるって言われて・・・、て、そこのご令嬢、楽な姿勢に戻しなさい。そのままじゃ辛いだろう。それとアインスお前もだ。もうすぐ昼休みが終わるぞ」  ホッと息を吐きながら顔を上げてギョッとした。  真赤に近い赤銅色の髪、海を思い出させるような深い青の瞳。  まるで騎士のような黒い衣装を纏った背の高い美丈夫が辺境伯の息子の肩を親しげに叩いているのが目に映ったからだ。 「ウィリアム第一王子殿下・・・」 ×××  その日ウィリアムは来週開かれる剣技試験の視察の打ち合わせで偶々学園にやって来たのだ。  この学園を任されているのは彼等の大叔父、要するに先代国王の弟の一人で王族でもある。  変わり者の学者肌で常に魔法学の研究をしており学園内の研究棟に住んでいて外出は一切しない人という徹底ぶりなので学園行事にもほぼ顔を出さない幻の学園長――しかし学園の最高責任者。  なので学園の視察の際は彼の証認が必要となる為、視察する側が態々顔を出さなければいけない。しかも極度の人見知りなので親族くらいじゃないと相手ができないという面倒くさい相手なのである・・・  剣技試験で優秀な者のピックアップは騎士団の仕事でもあるのだが、なんせ彼は人見知り。  騎士団長ですら面会が叶わないためもっぱらウィリアムかアダムが会いに行くしかないのである。  しかも学園内は許可なく魔法を使えないためウィリアムはお得意の転移魔法も使えないため渡り廊下を歩いて研究棟に向かっていた所だったのである。 「お前が怖い顔するから怖がってるじゃないか」
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