元・貧乏貴族は旦那さまを誘いたい!

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伯爵領は遠縁の親戚に管理してもらっている。いずれはマウォルス様と一緒に領地の方へ移り住まないといけないかもしれないが、先の話だ。 つまりいま暮らしているこの屋敷はアヴェンティーノ伯爵家の王都邸、という扱いとなっている。マウォルス様は騎士の仕事のかたわら、領地と手紙のやりとりをしたり使者の相手をしたりと忙しそうだが、おれの暮らしはほとんど変わっていない。 いちおう伯爵夫人だから礼儀作法を習ったりもしているが、腐っても貴族。ある程度は身についているからそれほど大変でもない。しかもオメガである番を外に出す貴族はほとんどいないらしく、マウォルス様も基本的にはおれにも家にいてほしいそうだ。 ……おれになにも言わずにここへ連れてきて軟禁したくらいだもんなー。それが苦じゃないどころか、理想の生活と思えた自分はかなり楽天的かも。 「すまないが、領地から至急確認が必要な仕事が入ってしまった。午後の外出はまた今度でもいいか?」 「はい!お仕事がんばってくださいね」 またかぁ。 マウォルス様の久しぶりの休日は、一緒に王都の街を歩いてくれるという約束だった。おれ一人で行かせるという選択肢はないらしい。そりゃおれだって、マウォルス様と一緒のほうがぜったい良い。 しかし近ごろは、予定を決めても当日に仕事が入ってしまって中止になることが多いのだ。マウォルス様はおれから見れば体力おばけだけど、睡眠時間も短くなるとさすがに心配だ。 結婚してから寝室は一緒だけれど、一緒に眠りにつくことは最近ほとんどない。だからちょっと……ご無沙汰なのも寂しい。 発情期はちゃんと付き合ってくれるものの、あのときは記憶が曖昧になるからなぁ。前後不覚になってかなり恥ずかしいことを言って……している自覚はあるから、それはそれでいいのかも。 もう少し時間に余裕のあったときは、おれが起きているときにマウォルス様が寝室にやってきて、発情期じゃなくても肌を重ねることはときどきあった。 おれもマウォルス様も健康な男子だ。三ヶ月に一度ほどの発情期だけじゃ……全然足りない。ましてや想いが通じ合ってからは、マウォルス様の碧い瞳に見つめられるだけでドキドキして、どうしようもなく抱かれたくなってしまうのだ。 普通の夫婦がどうなのかわからない。もしかして、おれって淫乱なの? ちょっと不安になってきて、ミナーヴァ姉上とやりとりしている手紙に書いて相談した。姉上はおれの親代わりでもあり、先生でもある。そろそろ返事が来るころだ。
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