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対してアヴェンティーノ伯爵領には肥沃な土地があるため農作物の生産量が多く、主要な街道も通っていて実入りが多い。安定した領地経営のお手本のような領だ。
長子承継を採用するこの国で、現当主はアルファである一人娘ディアーナ様に家督を継がせるため、婿入りしてくれる者を探していた。そこで白羽の矢が立ったのが、娘と同い年でオメガのおれだった。……だったはずだ。
アヴェンティーノ伯爵領は我がカンピドリオ男爵領から約一週間の道のり。
おれは混乱を抱えながらも、迎えの馬車に乗りこんだ。どうして兄がいるのかは謎だが、妹と結婚するなと言われた訳ではない。腹を括って行くしかないだろう。
「ふわぁぁ、すっげー」
豪奢な内装にフカフカの座席がついた馬車は未知の乗り物だ。貧乏すぎて痩せた馬に申し訳程度の荷台を括り付けた荷馬車にしか乗ったことがないから、ちゃんとした座席がついているだけで感動ものだった。
男はマウォルス=アヴェンティーノと言った。行きは効率のため騎乗してきたようだが、帰りはおれと一緒に馬車へと乗り込んでいる。
見目の整った美丈夫で、座っていても見上げるほどにでかい。王国の騎士団に所属している騎士様だそうで、鍛え上げられた身体は厚みもすごかった。
光に透けるプラチナブロンドの髪は肩上でバッサリと切られ、ボリュームがあるからライオンの鬣のようにも見える。
なによりも吸い込まれそうなほど深い碧眼に見つめられると、背筋からビリビリと緊張が湧き上がってくる。っていうか、眉間に力が入っているせいで目つきが悪く、体格も相まってすごく威圧感を感じる。
――いくらフカフカの座席でも落ち着かないんだけど!え、この狭い空間で一週間もこの人と一緒?
見た目通り寡黙だった同乗者とたいして会話も盛り上がらないまま、旅程は半分を過ぎた。
途中途中の宿の手配は完璧で、毎日おいしいご飯と快適な睡眠は保証されている。それなのに、日を追うごとに感じたことのない焦燥感がおれを襲っていた。
落ち着かなくて俯くと、頼りないシルバーの髪が顔にかかる。こちとらボリュームがないせいで、背中まで伸ばしても細い紐で一括りにできるほどだ。
シルバーの髪色はこの国では珍しいが、周辺の国にはちらほらいるらしい。瞳は葡萄みたいな色をしていて、色の取り合わせは結構いい。これで容姿が良かったらそれを切り札に婚活できたんだろうけど、あいにく平凡顔なんだよなぁ。家族は可愛いかわいいと言ってくれたけど、身内の言葉を信じるほどおれは愚かではない。
「疲れたか?休憩しよう」
「え、あっ、大丈夫!大丈夫ですから!」
いいと言ったのに、マウォルス様は馬車を止めてしまった。早く目的地に到着したくて、必要以上に馬車を止めないようにしてたんだけどな……確かに疲れてるけど。
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