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「ジューノ様、よろしいですか?」
「ん?どうしたの?」
「行商人のルキ、と名乗る方がいらしております。ジューノ様に言えばわかる、と申しておりますがいかがいたしますか?」
「え!ルキってあのルキ?」
慌てて玄関ホールまで赴くと、中肉中背、茶髪の短い髪を遊ばせた男がおれに気づいて「よっ」と手を上げた。
間違いない。昔からカンピドリオ男爵家に出入りしていた行商人のルキだ。かつては貧乏すぎてろくに買えるものはなかったけど、たまに来ては楽しい話を聞かせてくれた。領地の外に出ることがなかったおれにとっては、貴重な存在だったのだ。
「ジューノ、久しぶり。ちょっと大きくなったか?相変わらず可愛いな〜〜〜!」
「もう、やめてよ!はー、でもほんと、懐かしい。どうしたの?」
ルキはおれのシルバーの髪をわしゃわしゃと撫でた。小さい頃から会っているから、扱いがいまだ子どもじみている。
確かにおれは大きくなった。身長はマウォルス様に遠く及ばないもののまだ成長期なのもあるし、毎日お腹いっぱい食べられるようになって肉もついてきた。
さすがに太ったかも?とこの前マウォルス様に尋ねたら、「まだまだ細い。でも太ったところでジューノは可愛いだけだろうな」と平然とした顔でのたまった。あの人はおれに甘すぎる。
ルキも昔から可愛いといってくるけど、小さな子に向けた言葉と同義だ。そういえば、ルキが王都でおれの噂を流したんじゃ……。
マウォルス様とおれが結婚したことは周知の事実だが、なぜか『カンピドリオ男爵家の美しいオメガと結婚した』と言われているらしいのだ。ひぃ。不相応すぎて外に出られない。
「久しぶりにカンピドリオ家に行ったら、ちょうどミナーヴァ様に頼まれたんだよ。はい、これ」
手渡されたのはミナーヴァ姉上からの手紙だ。これだけのために?と思っていたら、贈り物だという小包もあるという。ルキの取り扱っている商品を姉上が購入して、おれに持ってきたらしい。
カンピドリオ男爵領には痩せた山がひとつあって、なんと最近そこから温泉が沸いたのだ。王都では空前の温泉ブームで、マウォルス様の支援もあり、小さな温泉施設が誕生した。つまりいま生家はウハウハ、ここぞと姉上は買い物にご執心なのである。
「わ、ありがと。……なんだろ?」
「夜のお悩みがあるんだって?ジューノは可愛すぎるもんなぁ。これでもうちょっと色気だしてみろよ」
「は?――ちょっと!!」
ニヤニヤ笑って告げられたひとことに顔が熱くなる。もう……口が軽すぎる!
僕の全力を振り絞って殴りかかろうとしたところで、使用人から連絡を受けたマウォルス様が登場した。
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