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貧乏貴族は婿入りしたい!
ラッキーだ。すっごいラッキー!
貴族と名乗るのが申し訳ないほど貧乏な家に生まれ育ったおれが、安定した領地経営で知られるアヴェンティーノ伯爵家に婿入りすることが決まったのは成人を迎えた直後だった。
もうこれで毎日汗水たらしながら畑の世話をしたり、抑制剤のない発情期をひとり寂しく乗り越える……なんてこともしなくていい。試練ばかりの貧乏ライフとはおさらばだ!あばよ!
――そう思っていたのに。
「ジューノだな。迎えに来た」
「は?」
「ディアーナの兄だ」
「――は??」
伯爵家から寄越された馬車の横には、なぜか……おれの結婚相手である伯爵令嬢の兄と名乗る男が立っていた。
ていうか兄がいるなんて聞いてないんですけど!?兄が迎えに来るってどんな状況なのーーー!
おれが生まれたときからずっとカンピドリオ男爵家は貧乏で、能天気な両親としっかり者の姉と支え合って生きてきた。
家族仲は良好だったものの両親は病気で三年前と二年前に他界。
家督を継いだミナーヴァ姉上は婿養子である旦那さんとの間に第一子をもうけたばかり。姪っ子は目に入れても痛くないほど可愛いが、貧乏男爵家はひとり食い扶持が増えるだけでも大変だ。
使用人も数えるほどしかいないし、彼らにもどちらかというと農作業に携わってもらっていて、身の回りのことは自分たちで行うのが基本だった。
家族はみんなベータだったのに、おれは一割にも満たないと言われるオメガとして生まれてしまった。肉体的に成熟して発情期が始まってからは大変だった。ちゃんとした抑制剤なんてものはお金がかかるので手に入れられず、安い薬は粗悪品で身体への副作用があるらしい。妊娠しにくくなるとか。
おれは自分の身体の価値を上げるため、粗悪品を口にしたくはなかった。金のかからない将来への投資といえる。だからずっと薬に頼らず、ひとりで部屋にこもって耐えてきた。
なぜかって?そりゃ貧乏だし、オメガだし……もうこれは第二性を利用するしかないと思ったのだ。
金持ちとまでは言わない。うちほどの貧乏貴族はなかなかいないだろうから、安定した貴族でオメガを求めている家に婿入りして、人生の安定を手に入れたかった。
無理して成人後すぐに婿入りしなくても……と姉は心配してくれたが、オメガの弟がずっと家にいるほうが邪魔だろうしな。
しかもおれに声を掛けてくれたのが上位貴族のアヴェンティーノ伯爵家だったものだから、結局は背中を押してくれたのだ。
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