君の為に

2/7
前へ
/228ページ
次へ
それに頭を抱えるのだったら優しい私に美味しい美味しいパスタをつくってほしい。できればそこにデザートをつけてほしい。 料理を作る店長に背中を向けて私は悪魔の笑みを浮かべる。 ──お昼のピークを過ぎた店内はさっきの賑わいが嘘だったかのように静かだ。 外に目を向けると信号待ちをしている車が電車のように車間を詰めて止まっている。 人々は足を止めずに、スーツだったりラッパーみたいな服だったりを着た人達が時折肩と肩をぶつけながら息苦しそうに歩いていた。 私はお客さんがいない店内から外を見るとき、まるで世界からこのお店だけが忘れ去られたかのようなノスタルジックな気持ちにさせられて、不思議と悲しい気持ちになってしまう。 後ろから店長の声がする。 「お昼のパスタ作るけど食べてくれる人いますかー?」 オーダーテイカーの女性は元気よくお願いする。私も続くようにお願いした。 二人で席に座り今日はなんのパスタか予想を語り合う。 私の予想はホワイトソースだ。ホワイトソースは今日あまり頼まれていなかったから余っているはずだ。 だが女性が予想したのはスープパスタだった。10月下旬で寒くなり始め、お店にくるお客様も温かさを求めスープパスタを注文する方が多かった。プライミング効果と言うのだろうか、店長もお客様に影響されてスープパスタを作るかもしれない。 私は説得力のある女性の言葉に敗北感を感じた 7f99ec3d-362d-4ca3-b7dc-22f6c41d42ea
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加