君の為に

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だがまだ負けたと決まったわけではない。 目の前に皿が置かれるまではわからないのだ。 勝利を確信した女性とそれを認めない私。その二人の前に店長がパスタが盛られた2枚の皿を持って現れた。そして、パスタを見た女性と私は目を見開いた。 女性が思わず口に出して言う。 「──な、なんですかこれ」 私達の前に置かれた皿に盛られたパスタはあまり見慣れないものだった。 パスタに絡んだソースは水気が少なく薄い茶色の少しボソボソとした異様なソースで、香りはバジルと他になにか別の香りがする。 見た目はお世辞にも良いとは言えないもので、王道のパスタとは程遠い。 女性の疑問に答えようと店長が口を開く。 「“トラパネーゼ”ですよ」 ──トラパネーゼ。 イタリアのシチリア島の名物パスタだ。ブーツに似てると言われるイタリアの形で言うと、つま先の場所がシチリア島である。 シチリア島はアーモンドの生産地として有名だ。トラパネーゼはそのアーモンドとトマト、ニンニクやバジルをミキサーでペースト状にしてパスタと和えた料理で、私が感じた香りはアーモンドの香りのようだった。
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