君の為に

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「あーたしかに......」 どうやら伝わったようで、3人で以心伝心する。 たしかに味は美味しい。しかしお世辞にも見た目はよくなく、例えるならば嘔吐物のように見えてしまうのだ。 パスタはビジュアルが命だ。 見た目がいいだけで美味しそうに見える。 そのビジュアル目当てに写真を取るお客様だって増えてきている中で、見た目が悪いパスタは積極的にお客様に勧められない。 新メニューは考え直すことにした。 ──暗くなりはじめ、オレンジ色の空をかき消すように車のライトが窓ガラスに映りこむ。 昼のピークを思い出す賑やかなお店。忙しいが昼のピークほどではなく私の腕は2本より増えることはなかった。 女性がオーダーを聞き、私と店長で料理をつくりお客様に提供する。かすかに聞こえるお客様の静かな談笑の声。それがこのお店の日常であり、そんなルーティーンは雰囲気が働きやすく好きだった。 ふと外を見ると夕焼けのきれいなオレンジの空は、いつしか底が見えない谷底のように暗く黒い色へと変わっていた。 私は次のオーダーを確認しようとしたがオーダーは届いていない。 不思議に思って耳を澄ますとお客様の談笑はすっかりなくなり静かになっていた。 厨房の時計を確認するともうお店を閉める時間になっている。
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