君の為に

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「お疲れ様です。終わりましたね」 店長が厨房に顔を覗かせて言った。 私は返事をするがオーダーを取っていたはずの女性が見当たらない。 「先に帰っちゃったんですか?」 私が厨房から店内を見渡しながら言うと店長が答えた。 「うん。用事があるらしくて急いでたよ」 女性は先に帰ってしまうことが多く、私はあまり挨拶ができていないことをいつも少し悪く思っていた。 「美香さんも上がって大丈夫ですよ気をつけて帰ってください。明日は美香さん休みなのでゆっくり休んでくださいね」 その言葉を聞いて私はエプロンを外して店長に挨拶すると厨房を離れ、自分のロッカーに向かい荷物を持ち勝手口のドアに手を伸ばし掴もうとする。 「美香さん明日は休日ですよね」 不思議に店長が聞き直す。 私は「はい」とあまり深く考えずに答えた。 「......なにか休日は予定あったりするんですか?」 店長の様子が少しおかしい。 いつも自信たっぷりの目線で職人のような雰囲気はなく、小学生の子供が親に10点のテストを見せているような、そんな見慣れない弱々しい店長に少し戸惑う。 それに、いつもなら挨拶だけで帰らすが今日はなぜか引き止めようとしてくる 私はドアに伸ばした手を戻して言う。
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