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お金がなく自炊が多かった学生の私には高い食材なんてものは買えなかったが、専門学校で学んだ知識で“高い食材の力”ではなく“知識と技術と経験の力”によって美味しい料理を作ろうとしていた。
だがどんな事をしても高い食材には勝てなかった。
結局は、“手間を掛けた料理”よりも“適当でも高い食材を使った料理”の方が美味しいのだ。
社会だけでなく、料理の味にも資本主義があることに絶望していた私は、この尖った考えを丸めることができずにいた。
そんなある日、たまには外食しようと思って来店したのがこの庶民的なイタリアンのお店だった。
貧乏だった私は高いお店なんて行けない。お手頃価格のこのお店の味なんて期待すらしていなかった。ただ食べれればいい。そう思って一番安いペペロンチーノを頼んだのだ。
見た目は普通。コンビニのパスタ弁当とそっくりだ。
味もそっくりなんだろう。そう思って乱雑にフォークで巻いていく。
だが口に入れて驚いた──。
今までのパスタで一番美味しいのだ。人生で一番美味しいと思ったのはこの時が最初で最後だった。
驚いた私はフォークを置いて咀嚼しながらメニューを開いて値段を確認する。
『ペペロンチーノ 850円(税込み)』
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