第3話 フラッシュバック

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第3話 フラッシュバック

 宿泊先は、海の家から10分とかからない海に面した民宿だった。  オヤジさんの奥さん(叔母)が運営している民宿で、1階に大広間があり、2階が宿泊部屋になっている。全ての宿泊部屋は海に面していて、窓を開けると風が部屋全体に拭き、涼しい作りになっている。トイレと風呂が共同のところが難点だ。  マンションに慣れている僕としては、トイレもお風呂も一人で入りたい欲望がある。  昼間は海の家で、かき氷や軽食の販売、浮き輪やビーチボールの貸し出をしている。 夕方、海の家の片付けが終わると、民宿に戻り、宿泊者の対応、夕食の配膳、皿洗いをしている。一息つけるのは、午後10時頃だ。  仕事が終わると、湯舟に浸かり夕食を取る。  夕食は大抵4人で摂っている。オヤジさん、叔母さん、僕と千鶴の4人だ。おばさんが作る食事は最高に美味しく、ご飯のおかわりは当たり前だ。  夕食の片付け後、千鶴は叔母さんの肩を揉み、僕はオヤジさんの晩酌に付き合っている。僕は未成年のため、ジュースや麦茶だ。  明日は海の家が定休日のため、4人で夜遅まで過ごした。  ザザッザザッ、バシャンと防波堤に打ち付ける波の音に、ぼんやりとしながら目を覚ました。部屋の明るさから9時近く迄寝ていた事が分かった。  ゆっくりと布団から起き、カーテンを開けると、眩しい程の日差しに手の甲で日差しを遮った。 『今日も暑くなりそうだ』  宿泊室に備え付けの1人用の机に、無造作に置いているテレビのリモコンをとり、電源スイッチを押す。  朝番組も終わっていて、チャンネルを切り替えても朝ドラや料理番組の放送がメインで、興味が湧く番組は無かった。  リモコンの電源を切ろうとした時、『ピロンピロン』という音がテレビのスピーカーから流れてきた。2度と聞きたくない嫌な音だった。  『緩急放送です。今朝、8時40分頃、東名高速道路で数台による玉突き事故が発しました。先頭のトラックが中央分離帯に接触し横転したところに、後続のバスや乗用車が次々と衝突した模様です。トラックの運転手は軽い怪我・・・』  テレビから聞こる音が遠く聞こえ、僕の頭の中に、忘れたくても忘れられない記憶が、フラッシュバックした。
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