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2.白い少女
コンコンコンとドアが鳴った。こんな深夜に何事か、と怪しく思い警戒しつつ戸を開いた。顔を覗かせたのは小さく美しい少女だった。背丈のせいで随分と若く見えるが、声は凛と澄んでいて、色っぽく心が洗われるようだった。雪のように儚く美しい白髪は顎のあたりで綺麗に切り揃えられている。そして火が燃えているように濃い色をした赤い目をもつその少女は白い晴れ着を纏い、行儀良く手を乗せて立っていた。秋の最中、紅葉の景色にその姿はよく目立つ。
「ここへ泊めてはいただけませんか。道に迷ってしまって、帰る場所もわからないのです。」
少女は唇をふっと開き、そう言った。二十歳になった男で、このような機会を簡単に逃すようなものがいるだろうか。多少の下心を隠しつつ少女を家に入れた。
「お嬢さん、いったいどこからやってきたんだ」
周りを見下ろせばごろごろとした石と、木が覆い茂っているのが見える。この家は山の奥深くに建っており、人家は四軒ほどしか建っていない。なぜこんなところに訪ねてきたのだろう。
「詳しくはお答えできません.....ですが本当に遠いところからやってまいりました。このことは本当に感謝しています。」
「お腹は空いてないか。ああ、そうだ丁度団子があるから食べるか。俺の手作りで申し訳ないが。」
家は決して裕福ではない。一人暮らしで山にきのこや山菜を採りにいったり川で魚を釣ったりして一日の食事も充分にならない。そんな貧しい中で暮らしている。だが長旅をして疲れているであろう少女を見過ごすわけにはいかなかった。
「ありがたくいただきます。こんなに親切にしていただいてありがとうございます.....。」
「いやいや。いいんだよ。もう秋が深いし寒いからね。そこに布団があるからそこで寝な。」
この家にひとつしかない布団を彼女に譲り、囲炉裏の前に転がるように眠った。
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