3.祭典

1/1
前へ
/5ページ
次へ

3.祭典

目が覚めるともうすっかり朝でまばゆい光が差し込んでいた。彼女はもう起きただろうか。そう思い寒さで疲れた鉛のような体をゆっくりとあげて布団を見る。すると人ひとり布団から抜けてような残骸だけを残して彼女は消えていた。何も言わずにでていくとは思っておらず、寂しい気持ちになった。と同時に、もしまた彼女が森を彷徨うことになったら、もし今また彷徨っているとしたら__と想像し、恐ろしくなって慌てて家を出た。この森はややこしい。だから森の深くに迷い込んだかもしれない。そう思い必死に少女を探す。まだ紅葉の綺麗な時期だが、山の奥深くはそれに似合わずかなり寒い。放っておいたらまた迷ってしまうかもしれない。どれだけ歩いただろうか。やっと少女を見つけることができた。 「何をしているの。こんなところにいたら寒いよ。それに.....ここは何?」 彼女はすぐに答えなかった。代わりにふわりと諦めるような悲しい微笑みを返し、周りを見渡した。あたりを覆う木々についた葉は流されるままに風に吹かれていた。 「綺麗なところでしょう。ここで毎年お祭りをするの。この月を見ながら月の都の住人でお祭りをするの......ううん、していたの。」 「ここの山には昔はたくさんの人が住んでいた。毎年この祠にたくさんのお団子をお供えしてくれたの。私の誕生日をお祝いしてくれた.....。だけど数年前....数年前からよ。ここにお団子がおかれなくなってしまって.....私のこと誰も祝ってくれなくなった.....。だからあなたに感謝してるの。本当に嬉しかったわ.....。」 「そんな......君は月の都の住人だったのか.....。それにお祭り.....って五年前からなくなってしまったもののことか......」 昔はこの山一帯でお祭りを行っていた。枯れ葉が積もり、手入れが行き届いておらず苔の生えたあの廃れた祠に、長老の作る、月の神を祭るための月見団子をお供えしていた。 「長老......親父はもういないんだよ.....すまないな。わざわざここまで来てくれたのに。お団子がないと月のみんなも来れないよな......。俺がみようみまねだけど作ったら都のみんなも君の誕生日をお祝いできるかなぁ......」 「お願いしても、いいの.......。」 「親父みたいに上手くはできないかもしれないがな.....やってやるよ。」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加