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5.最高の誕生日
しばらく二人で話しているとすぐに夜が来た。しばらく月を眺めていると、そこに黒い影がいくつも飛んでいるのが見えた。あっという間にそれが大きくなり、ついに山に降り立った。
「今年の月もいい月だね。間近で見るのもいいけれど、こうやって遠くから眺めるのもいい。月は我々月の都の住人と地球の住人の交流のきっかけになっていたんだ。だからまたこうして祭りを開けて嬉しいよ。」
長老のような年老いた住人が昔を懐かしむようにうなづき、話し始めた。
「君の親父さんは月をとても愛していてね。この日を随分と楽しみにしてくれていたみたいなんだよ。わしからも言わせてくれ。本当にありがとう。」
毎年見てきた月はこんなに美しかっただろうか。月をみて美しい、など感じる心など親父が死んでからとうに忘れてしまっていた。俺は親父が死んでから、それを思い出してしまうから、と月を過剰に避けてきた。けれど今のそれは、父の生きた証に見えてなんだか誇らしかった。
「......思い出したよ。俺は親父とこの祭りに来ていたんだ。そしてこの月をみんなで眺めていた。俺は親父の死と共に記憶に蓋をした。この辛い記憶を思い出したくなかったから.....。」
「親父さんは君のことをよく話してくれてね。誰よりも月を愛していた、と言っていた。あの輝く目は月と同じくらい綺麗だった、ともね。」
「そうだったのか.......」
その話を聞いて、自分が父を思い出す怖さに怯え、必要以上に月を避けてきたことを少し恥ずかしく思った。確かに父はいつも月を愛していた。見ないふりをしようとしても忘れられなかった、父の笑顔。時が少年時代でそのまま止まったかのように生き生きとしていた。
「.......そうだよ。あなたのお父さんの話はみんなから聞いたことがある。私たちもこの日を毎年楽しみにしていたよ。どうか.....できたらこれからも続けてほしい。この伝統を、交流を断ちたくなくて......。」
答えはもうひとつしかなかった。この祭りを後世まで続ける。そしてこれからも交流を続けていく。いつまでも、ずっと___。
「もちろんだよ。俺はこの祭りを続ける。約束するよ。親父が愛した月を、みんなをこれからも俺が守り続ける。」
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そうして今でも楽しまれているのがお月見、という文化です。月のうさぎたちを思い、お団子おひとついかがですか.......?
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