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第2話 みゆきとツーリング
「よう。ハニー」
新藤モータースの看板娘であり、オーナーの一人娘の新藤みゆきが店の外で水撒きをしている。
「朝っぱらから何」
「相変わらず綺麗だな」
「バカなこと言わないで。親父はまだ寝ているわよ」
頬を若干赤らめているが照れているのを面に出さない。そこが良いところだ。
「おやっさん寝坊助だな」
「全くいつまで寝ているんだか」
みゆきは俺のツーリング仲間であり、俺の愛車を整備してくれる頼もしい相棒でもある。
恋人かと言うと恋人ではない。だだの仲間だ。俺的にはその距離が丁度いい。
「すとっとるが甘いんだ。見てくれねぇか?」
「自分で調整すれば良いじゃない」
「まあ、冷たいこと言うなよ。パーツも入荷したんだろ」
「たしか来ていた様な」
こいつは自分から「見てあげようか」とは絶対に言わない。俺とのツーリング交渉ができなくなるからだ。
「頼むよ」
俺は手を合わせてお願いポーズをした。
「わかったわよ。ツーリングが条件ね」
「ああ、もちろんだ」
みゆきはおやっさんを叩き起こし、パワーアップパーツの取り付け、調整とスロットルの調整をしてもらった。
「よし行くか」
「おー」
今日のみゆきは絶好調の様だ。
今日は江ノ島に行くことにした。高尾ジャンクションから名古屋方面に右に折れ県道をひたすら走る。休日の10時を過ぎると交通量が増し渋滞になる事がある。早めに出発した為順調だ。
新湘南バイパスの藤沢ICで降り辻堂方面にバイクを走らせた。
国道134選に入りパーキングにバイクを停めると、ライダースーツの上半分を脱ぎ腰に留めた。
「あっちぃ」
みゆきもおかじ格好をしTシャツ姿になった。
「暑いねー。したも脱ぎたいわ」
「やめとけ。いい目の保養だ」
「ふふん」
みゆきは一気にライダースーツを下ろした。俺は腕で視界を塞いだが周りからの反応がなく、腕をずらすとみゆきはデニムショートパンツを履いていた。
「暑くねぇのか?」
「暑いわよ。今は涼しい」
浜辺の階段上になっているコンクリに座り海を眺めている。風が少し強いが気持ちいくらいだ。
「海っていいよねぇ」
「夕日は格別だがな。昼間は昼間でいい」
みゆきは神妙な顔になりまっすぐ海を見つめる。
「ねぇ、子供達が楽しそうに遊んでいるのって微笑ましいよね」
俺も神妙な顔つきになる。
「何が言いたい」
「あたし達もう2年になるよ」
「まだ2年だ」
みゆきの頬が膨らんでいくのが分かる。
このままはぐらかすと口も聞いてくれなくなる。
それはそれできつい。俺の相棒だからな。
「何か食べに行くか」
みゆきは不機嫌になり立ち上がるとサッと駐車場に向かって歩き出した。
「おい、みゆき待てよ。ちゃんと考えているんだ」
俺はみゆきに並んで歩く。
「考えるって何を?」
みゆきの視線が痛い。
「マイホームを買える様な男になったら、子供を二人育てて、立派なバイク乗りにする未来が見える」
「ふ〜ん。相手は誰?」
「それは聞かなくても分かるだろう」
暫く並んで歩いくと、みゆきは急に笑顔になり俺へ顔を向けた。
「わかったわ。あたしの事にしておいてあげる。ご飯奢りね」
俺は苦笑いをした。
近くの食堂で食事を済ませ出発した。
国道134号線を暫く走り、剣道311線から逗子ICに入り横浜経由で帰宅した。
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