第4話 チューンアップ

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第4話 チューンアップ

 新藤モータースに着くといつもの挨拶だ。 「ようハニー」 「おはよう。いつ?」 「いつって?」  俺は考え込んだが心当たりがない。 「もう忘れたの。江ノ島で約束したでしょ」 「あ〜あ、マイホームのことか?」  「うん。上がって」  みゆきは自宅の玄関を開け、手招きしている。俺は仕方なく上がる事にした。  リビングに入るとテーブルにわざとらしくチラシやパンフレットが散らばっていた。 「座って待ってて」  みゆきが入れたコーヒーは美味しい。  コーヒーを啜りながらみゆきはちらちらテーブルの上のチラシを見ている。  「みゆきが言っているのはこれか?」 「そうよ。ちらっと見て」 「どれどれっと」  みゆきは手前のチラシを取り俺の前に突き出した。 「これよこれ。この家は中古だけど立地がよくてぇ、〜」  みゆきの話を途中からほぼ聞いていない。俺はおやっさんを待っているんだ。 「ちょっと聞いているの?」 「あ〜あ、いいと思うよ」 「本当!」  みゆきの目が輝いているが、こいつが何を考えているのかわからない。 「おやっさんは?」 「まだ寝ているわよ」 「起こしてきてくれ」 「え〜、今から行くのよ」  ここでどこにと聞くと雷が落ちそうなので適当に頷き、おやっさんを起こすように催促した。 「朝っぱらからなんだ?」  寝起きのおやっさんは目を擦りながらいつも席に座りコーヒーを啜る。 「おやっさん、愛車のフルチューンを頼む」  俺は頭を下げて頼み込んだ。  おやっさんとみゆきに今朝の事を話した。 「あほっ!無茶な運転しやがって」 「そうよ。死んでわもらっては困るの」 「頼むよ」  何度もお願いし、やっと首を縦に振ってもらった。 「どれくらいでできる?」 「一ヶ月」 「そんなにかかるのか」 「俺は忙しいんだ」 「その間何もかもできないじゃないか」 「親父、あれ貸してあげたら?」 「あれ?」 「ダメだ」 「どうして、これから出かけるの!」 「わかぁったよ。乗ってきな」  みゆきのこわ〜いかおで、おやっさんは鍵を俺に渡した。  俺はおやっさんの愛車であるれGSX250Rを貸してもらう事になった。
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