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第8話 謎のTZR250SPRとバトル
第八話
新藤モータースにいそうろう2日目。
「おはよう。ダーリン」
「ようハニー。ダーリンはよしてくれ」
「良いでしょ。これから行くの?」
「ああ」
「見届けようか」
「いや、練習だからいいよ。それより手料理待ってるぜ」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
俺は片手を上げ格納庫からGSX250Rを引っ張り出してエンジンをかける。
キュキュキュル、ブォン、ブォーン
今日も快調だ。
朝から熱気が凄い。夜明けにも関わらず肌が焼けるようだ。
城藤峠入り口でいつもの一服。
みゆきの特訓を受けた体感と思考をリンクする。
ウォーン、ウォン、ウォン、ガラ、ガラ
GSXの後ろに停車したTZR250SPRのライダーはバイクから降りる気もないらしい。
俺はメットを被りふかすと急発進した。
TZRのサビついたエンジン音が響く。
S字コーナーからの立ち上がりからピッタリついてくる。俺はみゆきのチューンとラインディングを信じ舗装された道路を見つめGSXのエンジン音に集中する。
左カーブから右カーブへ。
TZRを引き離せない自分に焦りを感じグリップを強く握った。
『ダメだ。これじゃ今までと変わらない』
そして迎えたヘアピンカーブ。
ガソリンタンクを抱えたままヘアピン手前で冷や汗を掻いた。
「しまったぁ。体がガッチガチで腰が落ちない」
三速のままヘアピンに突っ込み、フロント、リアのブレーキを思いっきり踏み込んだ途端リアタイヤが蛇行し制御不能に。
ブレーキを離し二速に、そして一速にシフトダウンしフルスロットル。
リアタイヤがスリップしている中、リアタイヤが高回転してギューウと路面とタイヤの摩擦でリアタイヤが悲鳴を上げた。
ヘアピン途中の側面コンクリートが目の前に迫り衝突を覚悟した時、リアタイヤと路面が噛み合い、フロントタイヤが持ち上がった。
俺はハンドル毎体を捻った。
リアタイヤと路面の摩擦が大きくなって行き更にフロントが浮き上がったが、全体重をフロントにかけ、かろうじて踏めるリアブレーキをステップがわりに踏み込むんだ。
フロントタイヤが路面に接地すると一気に加速した。
二速にシフトアップし更に加速する。
TZRはヘアピンを抜けようとしているところだ。
ヘアピンの次は左カーブ。
TZRと並び左カーブのINを取り、二速のまま左カーブを抜けゴールイン。
俺は頂上のど真ん中にGSXを停車しメットを脱いだ。
TZRのライダーは俺に向き合い、メットのシールドを上げた。
「椎名さん、こんなラインディングだと必ず死にますよ。では」
TZRは走りだしここから去っていった。
ライダースーツからタバコを取り出し火をつける。
大きく息を吸い肺に煙を送り込んだ。
「ふぅ〜」
肺から出した二酸化炭素と共に煙を吐き出した。
「それにしても暑い」
ライダースーツの中は熱気で蒸している。
「さてっと、ハニーに電話だな」
『真一、あなた何やっているの!』
「あ〜あ、大惨事だ」
『知ってるわよ。今から行くから動かないでまってて』
「応急処置様の工具を忘れるなよ」
『わかっている』
『長い朝になりそうだな。それにしてもみゆきの焦り気はなんだ?』
俺はみゆきが来るまでアスファルトに寝転がった。
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