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「何これ。……、カード?」
そこから引き出した、ご丁寧にこれもプチプチでできた透明袋に入っている「カード」、世間一般にはトレーディングカードと称されるそれを、妻は胡乱げな目で眺めまわし——そのまま視線を夫へと向けた。
「これが、何?」
「あ、あー、そのさ、それ、最初は一万からはじまって」
「……は?」
「いや、だって一万だぜ一万! ヤバオクで見つけたときはマジかと思ったよ。『アルテマ・モンスターズ』のなかでもすっげえ人気の『氷雪竜王フロスティ・リバイアス〈限定〉ブリザードブレス』がそんな値段って、こいつすげー良心的だなぁとか思いながらちょっと入札して……」
「……」
「あ、でもだな、その、いっても二、三万とかだと思ってたんだぜ⁉ 俺いままでヤバオクで万単位の商品なんて入札したことなかったから、値段がどう動くか分からなくてさー」
「…………」
「そ、そしたら終了二分前でなんかじりじり上がりだしてさ。焦って十円とか百円とか刻んでまた入れたら、また誰かが入れて……で、一分前になったらすごい勢いでまた上がりだしたんだよ! おかしいだろ⁉ んで終わる直前にはもう俺もカーッとなって、絶対落としてやる! って、誰も入れなそうな金額を……」
「…………つまり」
それこそ氷雪の如く冷ややかな口調で、妻が断じる。
「あなたの二十三万が、コレ一枚に化けたってわけね?」
「あ……そ、そぉ……です」
「ちなみに、コレの相場って、二十三万より高いの?」
「…………ちょ、ちょっと安い……ま、まあ……だから……二、三万、くらい……」
「………………」
すぅ、と息を吸い、雪を通り越した吹雪の如き冷厳さで、妻は淡々と言葉を紡ぐ。
「『安いからって、いっときの気分で衝動的に買うな』」
「…………」
「『買うべきものかどうかちゃんと見極めてから買え』」
「…………」
「あなたがいつも言ってることよね?」
「……仰る通りデス」
「じゃあ」
顔を上げた妻は、にっこりと笑って死刑宣告を下す。
「これからは、私があなたのお財布も管理するわね。まず、キャッシュカードと口座番号と暗証番号をちょうだい」
笑顔のはずなのに鬼の形相と化したかのような妻に、夫はもはやガクガクと頷くしかなく——
そのあくる日から、夫が妻の尻に敷かれる日々が幕を開けたのであった。
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