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とあるアパートに若い夫婦がいた。
夫婦は共働き、しかもふたりとも正社員ではあったが、会社がケチなのか夫婦が処世術に疎いのか、どちらも薄給であった。
しかし、そんな家計のなかでも妻は、百円だの三百円だのの小物をちょくちょく買ってしまうという悪癖があった。
「かわいい」「これ役に立つかも」「百円だし」などと言い訳をつらね、結果的にひと月一万円弱にふくれあがっては夫に馬鹿にされていた。
「安いからって、いっときの気分で衝動的に買ったりするなよな! 買うべきものかどうかちゃんと見極めてから買えよ」
そう言って、妻には任せられないとばかりに自分の財布は別にしていた夫であったが——
ある日の夜、気まずそうに妻に切りだした。
「あのー……」
「なに?」
「……金、貸して」
「え? お金って、いくら?」
「…………、二十三万」
「………………はぁあああ!?」
自分の月給に迫るその金額に、妻は思わず音程の外れた叫び声を放った。
「なっ、なんでよ! なんでそんな大金が要るのよ⁉」
「あ、いや……落札、できちゃって……」
「は?」
「ええと……これ」
おずおずと夫が見せたのは、べたべたと伝票が貼られた厚い封筒だった。フリマなどでよく使われる、内側にプチプチがある大きめの封筒である。通常はなにかの精密部品や、角のある硬い製品などを送る際に使われるものだが……
既に開いている封筒の中に手を突っ込んだ妻は、目を丸くする。
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