第一話「妖怪転生」

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第一話「妖怪転生」

第一話「妖怪転生」 ゲゲ、ゲゲ、ゲゲ…… ヒキガエルの鳴き声が木霊する中、俺の命の灯火は、ゆっくりと光を失っていった。 痛くも辛くももう無かったが、走馬灯が走り出しやがった。 砂かけ婆に冗談言って砂をかけられたっけ… 気付かずに一反木綿をふんどしにしたら匂いが取れねえって首絞められたなあ… ……良い思い出なんてあんまり無いが…… 次の世じゃあもう少しハンサムにしてくれよ…… ………… ………… ………… 「ん………?」 「……天……国?」 目が覚めると、男の身体はゴミ箱の隣に横たわっていた。 自分の身体を触ってみると、見たこともない服を着ている事に気が付いた。 「あ……れ?もう…生まれ変わったのか? 体感5分くらいだぞ?」 路地裏から大通りに一歩出てみると、 そこは東京の様だった。 「上野!?がこんなんなってる!?」 「なんだこれは!!」 何もかもが見違えていた。 「あれは確か大正が始まった頃だったぞ!?未来だよな!?これ!?今は何時代なんだ!?」 「安いよ安いよ安いよ」 ダミ声がどうやら魚を売っていた。 腹の音がぐうと鳴る。 「安いのか……このポケットのヤツ、金だよな、多分」 男が魚屋の前でジッと商品を見つめていると、従業員はニヤリと笑って距離を詰め始める。 「ニイサン、今日はこのマグロのサクがお買い得だよ!?」 「ではそれをもらおうか。これで足りるか?」 「あ?900円だよ、そりゃ足りるよ。はい、お釣り100万円!」 「え!?払った額より多いの?」 「アンタ良い人だね!これでそんなリアクションとってくれた人初めてだよ!毎度あり!」 手には百円と書いてある小銭が握らさせていた。 「では頂く」 男はなんと、バリバリとラップを破きまるでキットカットをかじるようにマグロのサクを口にした。 「えええええっ!大丈夫かい、兄さん!」 「え?何が!?」 「マグロ、待ちきれなかったのかい!!」 「え?うん」 しまった。 この世界ではこう言う事はやらないらしい。 「じゃあ昔あった刺身ってえ文化はもう無くなったのか。生が美味いのにな……」 そのままアメ横を歩いて居ると、洋服屋の前に 姿見が置いてあった。 「鏡!……俺、今どんな外見なんだろう」 鏡の中には、色素の薄い明るい髪の色、それはそれは端正な顔立ちの男が立っていた。 「これが……俺……!?若い! あと多分カッコイイんだよな、コレ! 神様が願いを叶えてくれたって事か!?」 しかし、生まれ変わると言ったって、見た感じ大人になっている。  赤ん坊から大人になると思っていたが、こんな転生もあるとは。 「違和感あるよなあ」 「誰か!?ひったくり!」 と、絹をつんざくような女性の声があたりに響くと、姿見を見ていた男の目が光る。 こちらに走ってくるひったくり犯人に、あろうことか男はおぶさった。 「うわあっ!?重い!?」 この世のものならずものに遭遇したかのような声をあげた犯人はあっと言うまに地面に転がった。 瞬間、商店街の男どもに取り押さえられた犯人は警察に捕縛。 ひったくりにあった女性が御礼を言うべく男に近づいた。 「ありがとうございました!あの、良かったらお名前教えて頂契約ませんか?」 イケメンに照れながら女性はおずおずと目を見つめる女の目は、光り輝いていた。 「名前……? 俺…いや……僕の名は! ……子泣(じじいじゃないからね)と申します」 現代?に転生した子泣きジジイが魔王を倒す為に立ち上がるのは、もう少し先の事である。 続く。
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