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新天地へ
人々が明るい未来や楽しいひと時を求めて集う街。華やかで憧れでそれでいてちょっと手を伸ばせば自分にも届きそう。そんな都会の喧騒から一転、高層ビルの間に潜む隠れた楽園。古典的な日本庭園が、都会の中心に佇む平屋を囲み、その美しさは季節ごとに変わる。木々の緑、花々の色、庭の池の静寂が、心に静けさと美しさをもたらす。
「ここか……」
絵画のような景色に吸い込まれていると、中から品格漂う落ち着きのある風貌の初老の男性に声を掛けられる。
「ようこそ。おいでくださりました。長旅は疲れたでしょう。中へはいってお休みください。部屋は一番突き当りです。」
「分かりました。ありがとうございます。」
夏希は引き戸の玄関をあけて中へ入る。
(この玄関、僕の部屋より大きいなぁ…)
用意された自室へ向かう途中扉の空いた部屋を見つけた。中にいた青年の髪は漆黒で、着物の淡い青色をうっすらと映し、深い瞳は花々に映える。桜の花を手に取り、優雅に生ける指先は花に触れる度、優しい愛情を込めているようだ。ふとこの平屋に来た目的を思い出し、見つめてしまった事がばれていないようにと願いながら自室を目指した。
「ここが僕の部屋……」
住み込みの使用人に与える部屋としては十分過ぎる大きさの部屋に華美では無いが品のある、これもまた身に余る家具たちが美しく配置されていた。
部屋の窓をあけると、風が吹いた。
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