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「にしても遅いよね、このバス停は」
「・・・・・」
「都会も人手不足って云うし、田舎だったらもうバスを拝む事も出来なくなるのかなぁ?」
「・・・・・」
「ましてやこんな豪雨の中じゃ悲鳴も聞こえないんだよね。だから僕は大好きだよ。雨と田舎がさ……」
「何が言いたいんですか?」
黒髪に隠れて彼女がどんな表情をしているのかは分からない。
唯一見えるのは高い鼻、柔らかそうな唇、長い睫毛。全ての要素が男にとって興奮材料となる。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
吐息を漏らし、荒立った鼻から出る空気。股間はズボンを突き破るように突出。
「バスも君を助ける人も来ないからねぇ~!!」
その言葉と共に本性を現した男は少女に覆い被さろうとする。
しかし、少女はその動きを予見していたかのようにスッと立ち上がって躱すと蔑んだ視線を男に送った。
「そんな事ないですよ」
「は」
「寧ろ、その台詞が一番似合うのは貴方の方じゃないですか」
少女がそう言った瞬間、男の目や鼻、耳、身体中の“穴”から血が噴き出す。
「ぶふっ!!」
自身の噴き出た血液が呼吸を阻害し、嗚咽。苦しそうに地面に倒れ込んでのたうち回る男。
「強姦つもりだったのか知らないけどさ、相手は選んだ方が良いんじゃない?
それか、華奢で大人しそうな“女”だったら誰でも良かったのかしら」
そんな男の姿を滑稽だと嗤うように見下す彼女。
「き、君は何者──」
死に際、赤に染まった視界の中で男は最期にその正体を訊く。
少女は髪を掻き上げながら正体を現した。
「性欲に塗れた化物からか弱い少女達を守る妖怪っていった所かしら?」
次第に姿が変わっていく少女。生えた獣耳と尻尾、人の風体ではあるが確実に人間ではない生気が微塵も感じられぬ声。
冷たい雨のせいで感覚が鈍っていたからかもしれない。彼女の真っ白な皮膚には全く血管が透けて見えない。その肉体には血が一滴たりとも。
「罰が当たるもんなんだな。殺害ないようにしていたつもりなんだけど、警察は欺けても人外は聞いてないよ」
雨の勢いが強まる度に男の身体は灰へと変わって崩れていく。
「左様なら、下衆野郎。もう二度とこの世に生を受けないでちょうだい」
「ハハ!酷いなぁ~。でも、君とはまた逢えそうな気がするよ」
この期に及んでまだそんなことを抜かす男に少女は灰を踏みにじって言った。
「一生ほざいとけ」
男が完全に灰と化して消失、その数分後には少女も。
やがて雨が晴れたバス停にはようやく停まったバスと共にそれに乗り込む高校生達の姿。
先程までの事が嘘のように綺麗さっぱりと消滅していた。
誰にも見られることもなく、知られることもなく、少女は“人”に化けて明日もまた小さな町の安寧を守っていく。
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