7人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅱ.破りだしたら止まらない
鹿族に言い伝えられていることは他にもある。
親から子へと代々受け継がれてきた「習わし」だ。
「――人間の家や集落に近づくべからず。その田畑もまた然り也」
鹿は復唱するようにそう独り言ちると、フフッとキザに微笑んだ。
「そんな仕来りに従うにゃ、この角翌丸、若すぎるッ!」
鹿の本名は『カスケ』だったが、自ら名付けた異名・角翌丸という絢爛な名を謳いながら、揚々として人里の方へ歩を進めていった。
元々は「夜間外出禁止」の教えを、満月の力で破ることが目的であったはずの夜のお散歩だった。しかし気持ちが大きくなってしまったカスケは、鹿なのに猪突猛進に、次なる習わしを破らんと進み始めていた。
最初のコメントを投稿しよう!