Ⅱ.破りだしたら止まらない

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Ⅱ.破りだしたら止まらない

 鹿族に言い伝えられていることは他にもある。  親から子へと代々受け継がれてきた「習わし」だ。 「――人間の家や集落に近づくべからず。その田畑もまた然り也」  鹿は復唱するようにそう独り言ちると、フフッとキザに微笑んだ。 「そんな仕来(しきた)りに従うにゃ、この角翌丸(かくよくまる)、若すぎるッ!」  鹿の本名は『カスケ』だったが、自ら名付けた異名・角翌丸(かくよくまる)という絢爛な名を謳いながら、揚々として人里の方へ歩を進めていった。  元々は「夜間外出禁止」の教えを、満月の力で破ることが目的であったはずの夜のお散歩だった。しかし気持ちが大きくなってしまったカスケは、鹿なのに猪突猛進に、次なる習わしを破らんと進み始めていた。
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