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Ⅲ.人間の居住
カスケは人里の近くまで下山すると、木陰に身を寄せた。
まだ内側が日中のように明るい民家があったのだ。流石のカスケでもそこに近づくのは危険だと分かった。
カスケは人の作った明かりではなく、満月が照らしてようやく見える程度の、薄暗い集落の方へ向けて進んでいった。その判断はとても正しいのだが、いかにも勇ましい「角翌丸」というより、やはり「カスケ」の方がしっくりとくる行動だった。
カスケは、完全に消灯されたと思しき民家の敷地内へと、高跳び一閃、入り込んだ。
田舎ということもあるかも知れないが、庭側に開けた縁側は、雨戸に隠されることもなく、むき出しの状態となっていた。
人間の居住に興味津々のカスケは、迷わずそこへ近づいていった。
木を薄く切って敷き詰めたであろう縁側の床板は、月明かりに照らされ、うっすらと爽やかな肌色を感じさせた。カスケにとってそれは何とも神々しい光景だった。
カスケはどうしても、そこに腰掛けてみたくなった。
その衝動を抑えられず石段に足をかけ、縁側に飛び乗った。蹄と板が接触し、コトンという着地音と木の軋む音とが混じって響いた。カスケは耳を澄ませ、何か反応が無いかと固唾を呑んで見守った。
「……ねえ、ねえ、そこのアンタ」
まるで警戒していなかった方向から声が聞こえてきて、カスケは全身の体毛が逆立った。
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